彼は、意外とモテる。モテるというのとは、少し違うのかも知れない。どちらかというとそっけなかったり、女の子を大事にしないタイプだったり、そういう部分はあるけれど、憎まれるタイプではないというか。たまに会うだけの関係だし、お互い仕事が忙しいから、なんというか、楽だ。「ごめん、遅くなったっ」
そして、そんなバレンタイン当日。私は約束していた時間に遅れに遅れ、彼のアパートについたのは23時。仕事が終わらずいらいらして、かきあげた髪はぼさぼさになって、化粧だって乱れている。ああもう、最悪。上司の嫌がらせとしか、思えない。お局様はだいたいバレンタイン特設が始まる2月始めくらいから、ずっと機嫌が悪かった。……違うか。クリスマスからかも。
「いや、こんな遅くに来てくれてありがとう。寒かったでしょ」
優しく微笑んで、彼は私を部屋にあげてくれる。本当に、女の子にでも片付けてもらってるんじゃないかってくらい、いつでも綺麗で片付いた部屋。正直、私の部屋のほうが汚い。暖かい部屋で、手櫛で無理矢理に髪を整える。
「何か食べてきた?」
「ううん、何も」
「じゃあ、すぐ準備するよ。食べてないんじゃないかと思って、作ってたんだ」
「助かる……! ありがとう」
彼は料理もできて、私が来るとき、たまに食事の準備もしてくれていたりする。こういう気配りのできるところとか、本当にモテる要素が詰まっているというか。本当に、何もできない自分が不甲斐ない。
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