2009年03月29日

手すり

 高齢化社会が深刻化してきた。4人に1人がお年寄りになると、年金が大変しか考えてこなかった私たちは、別な理由にぞっとし始めた。高齢者の意見の強さだ。
 バリアフリーという言葉が叫ばれ始めて早10年以上が経つ。ついに、全場所への手すりの設置が義務付けられた。歩道に手すりがないなんて危ない、ということらしい。私の職場も例外ではなかった。仕事場なのだから、高齢者がいないのは当たり前だというのに、義務だといわれていろんなところに手すりをつけられた。棚の前、扉の近く。遂には細い廊下にまで。私たちは手すりに苦労しながら暮らすことになった。
 誰もが苦痛を抱えている法案だというのにもかかわらず、マスコミは良い点しか放送しなかった。当たり前だ。少しでも私たち若者に都合のいい報道が出ると、テレビの前に終始はりついているおじいちゃまおばあちゃまたちはテレビ局に一斉に苦情を言うのだ。その数が何百何千万となれば、恐ろしくなってテレビ局も報道に慎重になる。
 ついには勝手に手すりをはずしたとして、若者が捕まった。よくやったと称えてあげたい自分がいて、私ははあと溜息をついた。
「不満かい?」
 上司が私に笑いながら尋ねる。私はすました表情で「めっそうもありません」と答えた。
「若者たちは積極的に結婚して、たくさんの子どもを生んでいるらしい」
「老人たちに対抗するために、ですか?」
「そう。政府は子どもが生まれるたびに大金を寄付してくれるしね。おじいちゃんおばあちゃんも子どもが大好きだ。おこずかいだってあげる」
 はあと私は溜息をつく。仕事一筋に生きる女としては、その手の話題はご遠慮願いたい。
「どうだい? そろそろ結婚という道もあるんじゃないか?」
「いやですよ」私はにっこりと笑ってみせた。「私がおばあちゃんになったとき、いい思いできないじゃないですか」
 全くだ、と言って笑った。手すりに体を委ねながら。
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Suica

 都内を電車で行き来するときに、もうSuicaを持つことが当たり前になりはじめたその日、Suicaの表示残高に俺は絶句した。
(なんだ……これ……?)
 通常最大1万程度しか入れていないはずの俺のSuicaには、大金が入っていると表示されていた。その額、表示が難しいくらい。電子プリペイドカードにこんなに入るのかと疑問になるくらいの額だった。
 俺は昨日残っていたと思われる額を思い出そうとした。前回入れたのが3月頭で、そろそろ入れ直さなきゃと思っていた時期だった。ということはあと数百円しか残っていない計算だったはず。俺は自販機に走って飲み物を適当に買ってみた。
 買えた。10本を超えても、まだ。ただの表示ミスではないらしい。俺は大量の缶ジュースを持って会社に向かうことになった。

 俺は会社の昼休みに、Suicaが使える場所を徹底的に調べた。どうしたって少額の電子プリペイドカードなのだから、あまり大きな物を買える店はなさそうだった。同僚には缶ジュースを配って、それ以上のことは話さなかった。俺はとりあえず仕事終わりに本やCDを適当に買い、買えることを確認してから、飲食店で少しだけ高級なものを食べて帰った。後のことが怖くて結局それ以上のことはできなかった。
 次の日表示を見ると、数百円に戻っていた。

『先日から話題になっていたJR東日本のエイプリルフール企画の結果が発表されました。これはとある人のSuicaに一日だけ大金をつぎ込み、Suicaでの消費度合いを調べるというもので、たくさんの会社が協力していました。
 で、結果を見ますと……飲み物が10本、本とCDが少し、それから食事ですか……。額としては少し少ないですね』
『それだけ、Suicaが使える店という物が少ない、もしくはあったとしても認識がないのでしょう』
『そうですねえ。駅で少し使えるという程度しか頭にありません。私なら……そうですね。何に使ったらいいのでしょう? 全然思い浮かびませんね』
『もっと努力が必要という認識が数千円で確認できて良かったんじゃないでしょうか』
『そうですね。では、次のニュースです』

萃香が好きです。すいませんなんでもない。
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給料

 給料、と言えば、今の時代、金が当たり前だ。現金ではなく銀行振込で、税金は引かれ年金も引き落とされる。けれどここの仕事はいつも、現金以外のモノが渡されるらしい。
 例えば食事。例えば物。例えば……生き物ってこともあるようだ。いつも日雇いのバイトとして一斉に募集をかける。前回行ったときは女性限定で、化粧品の試用会だった。アンケートに答えて、多分売れ残ったネックレスを配って、説明を聞いて、興味を持ったものを答えて。結局いくつかの化粧品をもらった。普通に働いた方がよかった。
 しかし、この企画に味を占めた企業がいたことは事実で、報酬に物を渡すアルバイトが増えた。米だったり、自社製品だったり、提携してるところの物だったり。働く方も必要なものだと捉えているのであれば、普通に人が集まった。
 しばらくすると会社づとめの人々にも、現金ではなく日用品や食糧を給料として渡すようになっていった。物を買う手間が省けると、物が与えられることを喜んだ。物物交換も盛んに行われた。

 そうなってからやっと、税金の収集が困難になり、これが国民全員の企みだと知った政府は、急いで物品を給料として渡すことを禁じたのだった。
posted by しょこ at 19:58| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月28日

圧力

「人と話してるときにね、その人の圧力を、感じるようになったの。具体的に」
 ついにこの子は頭がおかしくなったのかと思いながら、私は彼女の持っているミルクティをひょいと奪った。
 
 彼女の話を要約すると、彼女は人の会話に対する圧力のようなものを、感じることが出来るようになったらしい。簡単に言うなればプレッシャー。期待してないよと言いながらしてしまう、期待のようなものか。そういうのをよくわからないけど、感じるらしい。
「具体的って何よ」
「具体的なの! 背中にね、親指でぐーって押されるような感覚」
「はあ?」
 ともかくそんな感じらしい。もともと頭のちょっとあれな子だったので、まあ諦めたほうがいいかもしれない。ミルクティが取り返された。
「ほら、ほらほら今、馬鹿じゃないのみたいな圧力かけてるっ」
「おう、今更気づいたのか。出会った時からかけてるけど」
「なんだってーっ」
 もう友達やめようか。そんなことを思いながらもいつものように適当にあしらうような関係が続いていた。
 
 しばらくして、突然彼女からの連絡が途絶えた。会社でも会わないし、ケータイも繋がらない。私は少し心配になって彼女が勤めてる課に足を運んだ。彼女の話を出すと、言いづらそうな顔をしながら、こう言われた。
「背中の骨が砕けて、緊急入院してるらしい」

 圧力を感じる。その意味が私にはまだわからない。

圧力を感じすぎて急に砕けた背骨。
posted by しょこ at 22:19| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

レンタルビデオ

 返ってこない、ビデオがあった。
 
 レンタルビデオ店でアルバイトを始めてから、半年が経った。レンタルビデオ店といっても、全国チェーンの有名なところではなく、私が働いているのは深夜独身男性によく好かれるような、ええと、もう説明はいいかしら、そういうお店だった。自給が高く、何よりレジでは顔が見えないようになっているので、安心して勤めに出れる。
 私たちの仕事は普通のレンタルビデオショップと同じで、お客様が持ってきた商品をレジでチェックして、会計を行い、一週間で返却をお願いしますと言う。それだけだった。返ってきたビデオはすぐに並べず、閉店後に一斉に戻すので、お客様と接する機会はほとんどなかった。
 いや、一応、ある。昼間にだけにある仕事。それは、ビデオを延滞しているお客様に電話をすること。私は夜よりも昼間に入るほうが多かったから、その仕事を結構受け持った。昼間はあまり人が来ないので、お客様がいない時間を見計らって電話をした。
 私はリストの一番上を見る。また、この人だ。先週も先々週も、私が電話をした。借りパクしようとする人は電話にも出ないか、もしくは電話口で切れる人が多いのだけれど、この人だけは違った。「申し訳ありません、申し訳ありません」と何度も謝るので、私も「もう少し待ってあげよう」という気になってしまう。店長もそう考えたようだった。一応、と思って電話をしてみる。
「もしもし、○○様でしょうか?」
「はい……、そうです……」
 消え入りそうな声で男が返事をする。また、この声だ、と思った。
「○○○○ビデオの佐藤と申しますが、只今お時間大丈夫でしょうか?」
「申し訳、ありません……」
「あ、いえいえ、そういうわけではないんですけれど」
 早速謝られてしまったので、私は焦ってしまう。もう、この人のペースに乗せられている。この声も全て演技だとしたらと思うと、ぞっとする。
「当店で借りているビデオがありますよね? 延滞金のほうが少し高くついていると思うんですけれど、大丈夫ですか?」
「申し訳ありません。只今立て込んでおりまして……。必ずお返ししますので、もう少し待っていただけませんか……?」
「そうですか。わかりました。お忙しい中お電話差し上げて申し訳ありませんでした」
「いえ、本当に申し訳ありません……」
 最後まで沈んだ声で電話を切った。私ははあと溜息をついた。
 
 それから一週間ほど経った頃だった。お客様には似つかわしくない、中年の女性が店内に入ってきた。女性は真っ直ぐにレジまで向かい、レジにいた私にこう言った。
「少し込み入った話がありますの……。よろしいでしょうか?」
 私はすぐに訳ありだと思い、女性をお店の控え室のほうへ招きいれた。
 店長やバイト君たちがみんなタバコを吸うので、控え室は本当にタバコ臭い。女性が少しむせたので、私は「すみません」と頭を下げた。
「これ……」
 女性はうちのビデオ店の袋を鞄から出して、テーブルの上に置いた。私が中身を見ると、ビデオが一本入っていた。
「うちの息子が借りていたもので……お返しにきました」
 私は状況を察した。うちのお客さんが一人亡くなったのだ。「確認してきてもよろしいでしょうか?」と尋ねると女性はこくりと頷いた。ビデオをレジに通すと延滞料金と一緒にお客様情報が現れた。間違いない。私が何度も電話した、「申し訳ありません」の人だった。
 私は控え室に戻り、女性に頭を下げた。
「返却に来てくださり、ありがとうございました。それと……ご冥福をお祈りします」
 私がそう言うと、女性は少し目元を潤めた。そうか、あの人亡くなってしまったのかと思うと、私も目頭が熱くなった。
「先週お電話差し上げたときに、異変に気づけたら……」
「え……?」
 女性は怪訝そうな顔をして私を見た。私は何か可笑しなことを言ってしまったかもしれないと思い、必死でフォローする。
「い、いえ、先週、延滞のお電話を差し上げたときに……。何度も謝っていらっしゃって。今、立て込んでいると言っていたので、どうしたのかなあとは思っていたのですが……」
 女性は顔をしかめて、それからとても言いづらそうに、こう言った。
「息子は……ケータイを持ったまま、川に飛び込んだんです。一ヶ月前に」
 私は女性が何を言っているのか、一瞬理解できなかった。
 
 私は何度も壊れたケータイに電話をかけていたのだろうか。
 「申し訳ありません」という声が耳から離れない。


レンタルマギカじゃないよ。ホラーなんだろうか。
posted by しょこ at 20:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

りぴーとあふたーみー

 彼女は自分で生きることをやめてしまった。
「おはよう」
 僕が起き上がり、彼女に笑いかけると、彼女も起きだして笑った。
「おはよう」
 僕が立ち上がると彼女は後ろに着いて来る。僕は無駄だとわかっているのに彼女に問いかける。
「朝ご飯、何がいい?」
 彼女は笑った。
「朝ご飯、何がいい?」

 朝食を食べるときも彼女は僕のまねをした。全く同じように動こうとする彼女。並んで同じように料理をすることにも、慣れた。そうなってしまったのは、彼女のせいじゃない。
 僕は窓の外を見ながらぽつりと言う。
「今日は、天気がいいね」
 彼女も、窓の方を向いた。
「今日も、天気がいいね」

 彼女がこうなってしまって、最初は、早口でずっとしゃべったり、わざとまねが出来ないようにいじわるなことをしたり、手を押さえつけたりしようとした。彼女はただ子供のように叫んで、辛そうに泣いた。病院に入れることもできず、僕は仕事に行くこともできなくなった。
 精神的にエネルギーを使うのか、彼女はすぐに眠ってしまうので、その間にできる在宅の仕事に切り替えた。食事に少し、病院でもらった薬も混ぜている。
 ひよこのようにずっと、僕の後ろをついてくる彼女。
 彼女は自分の意思で生きることをやめてしまった。


幼稚園のときとかやったよね。まねごっこ。怒られたけど。
posted by しょこ at 17:29| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

誤算

「君が……あの子を手放すことはわかっていたよ」
「仕方が……なかったんだ。俺だって……」
「でも彼女は君を恨んでいる。ほら、牙を向き始めた」
「誤解だ……誤解なんだ! 決して彼女と君を秤にかけたわけじゃ……!」
「ふふ、果たしてその言葉が彼女に届くかな?」
「おまえだって、笑ってなんかいられないぞ」
「な、なんだって……? 彼女が……」
「ふん、何の役にも立たないと切り捨てたつもりだったか?」
「彼女を見くびっていたようだ……。これはもう一度、我が手中に収めなければならないようだな」
「なんだと? 彼女はもう俺のものだ! おまえなどに渡しはしない!」
「ほう。ならば精一杯守るのだな」
「な……! お前、なんてことを……!」
「一番大事なものを忘れると痛い目を見るぞ。何故お前にはまだわからないのだ」
「くっ……! 俺の……誤算だ……!」




 パチン、パチン、パチン
 男たち二人の前では、文字の入った木の札が、マス目に合わせて戦い続けていた。


変態将棋。きもいきもちわるいきもい。
posted by しょこ at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

レベルアップ

 俺たちはパーティを組んで旅をしていた。マジシャンやメディスンもいるお陰で、俺たちはかなり有名なパーティになっていた。有名なドラゴンなんかも倒した。
 けれども一向に、俺のレベルは上がらなかった。高い経験地がもらえるボス戦では必ず、バトル中盤で気絶してしまうからだ。気がつくと他のメンバーが無事に経験を積んでレベルを上げている。俺だけがレベルが低かった。
 俺はその事実を気にし始め、ボス戦には気を引き締めて望むようになった。しかし、どうしても後ろからの攻撃に気がつけない。敵の動きはしっかり見ているはずだったのに。この職業が向いてないのかもしれない。今時剣士なんて……、古典的すぎるのだろうか。
 ある日のことだった。その日もボスと遭遇し、俺たちはバトルを開始した。試合中盤、俺は仲間に声をかけるために振り向いた。
 俺の後頭部めがけて杖を振り上げるメディスンの姿があった。

 俺はそのパーティから抜けた。
 一つレベルが上がったと思う。

低レベルプレイって言うのよ。
posted by しょこ at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

インフレ

 その男は最初普通に強かった。けれどもっと強い男が現れた。男は強くなった。その間にもっと弱い男もたくさん現れた。男は一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男はいろいろな人の協力を得て強くなった。男は一番になった。けれどももっと強い男が現れた。多少の犠牲を払い、男は強くなった。男はまた一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。

けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。
けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。
けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。
けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。

「……と、いう話。わかった?」
「強くなる話なのね?」

最終的には宇宙でテニスもできるし、死んでも甦ります。
posted by しょこ at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「僕が買ったらその大きいどんぐり頂戴ね!」
「テストで100点取ったら、ゲーム買って!」
「徒競争で一番だったらおこずかい頂戴!」
「テストで5番以内に入ったらラケットを買って」
「試合に勝ったら、僕と付き合ってほしい」
「高校に合格したら、パソコンが欲しいんだ」
「今日のデートを楽しく終えることができたら」
「大学に合格したら一人暮らしがしたい」

 これ以外にも無数に続く「暁」の山を、僕は今まで一度も失敗することなく、乗り越えてきた。それが、僕の誇りだった。
「もし、君が少しでも僕に好意を持っているならば、僕と出かけて欲しい。僕は君を海の綺麗なホテルに連れていってあげる。もしそこが気に入ったなら、僕と食事をして欲しい。そこのホテルは本当に一流で、君のためだけに特別コースを作らせよう。そこで僕と話して……僕を知って……、もし、その会話を楽しいと感じたなら、僕と付き合ってほしい。そのときは夜の海と月が綺麗な最上階の部屋でゆっくりと二人だけの時間を楽しもう。もし……」
「断る」


気持ち悪い。
posted by しょこ at 17:23| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月27日

 花びらが散っていく。

 私たちは地面に落ちた桜の花びらをほうきで集めていた。誰かが先生から借りてきたリヤカーで花びらをどこかへ運んでいく。みんな本当に楽しそうだった。誰かが花びらを少し取って、空に投げる。それを、誰かが笑いながら叱った。
 歩道の周りいっぱいに花びらが落ちているから、それをかき集めるだけですごい量になった。リヤカーが何往復もして、それを運んでいく。ある程度綺麗になったとき、誰かがこう言った。
「そろそろ行こうよ」
 私たちはみんなでどこかへと向かった。ゴミ捨て場に向かうのかと思ったけれどそうじゃなくて、もっと裏にある人があまり来ない場所だった。
 そこにぽっかりと地面に穴があいていてその中に桜の花びらが敷き詰められていた。リヤカーの中にはまだいっぱいの花びらがあった。
「これ、どうするの?」
 覗きこみながら、私が尋ねる。誰かが、私の背中にそっと触れた。
「決まってるじゃない。あなたを埋めるのよ」
 私が落ちると花びらが舞い上がった。その上から花びらがまた入ってくる。土がかけられる。花びらが汚れていく。

 笑い声が聞こえてくる。私はあの人たちの名前を知らない。


自分を殺した人の名前を知らない。
posted by しょこ at 13:55| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ラジオ体操

 このアパートに引っ越してきて、1カ月が経った。私の仕事は夜が多いので、必然的に寝るのが朝の6時くらいになる。すると、7時くらいに音が聞こえてくる。
 ラジオ体操だ。がやがやという子供の笑い声と、ラジオから流れる軽快な声。このうるささだときっと近くの空き地か公園かどこかだ。本当に迷惑。私は今日も目を覚ましてしまって、もぞもぞと布団に潜り込む。引っ越してくる前は、こんな場所だなんて知らなかった。早く引っ越した方がいいかもしれない。

 

 それからしばらく経って気づいたのだが、この近くに空き地も公園もないし、聞くと、ラジオ体操なんてどこもやってないそうだ。
 それでも7時になると、ラジオ体操が聞こえてくる。
 起きだして窓を開ける勇気がまだない。

 変なホラー。
posted by しょこ at 13:54| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

砂漠

 砂漠を作ろう、と誰かが言いだして、幼い私たちは砂漠を作ることにした。まずはみんなで公園の砂場に向かった。砂場の砂を踏みながら、どうしたら地面がこんな風になるのか考えた。
「普通の土は湿ってるよ。水が多いんじゃない?」
 土の水分がなくなると砂になると思っていた私たちは、さっそく空き地の土を掘り返してみることにした。
 その前に、雑草がたくさん生えていたので、それを抜かなければならなかった。本当は空き地全体を砂漠にしたかったが、疲れたので一角だけにした。私たちは土をコンクリートの上に乗せて少しずつ乾燥させて、ゆっくりと砂漠を作ることにした。
 次の日、雨が降って、そのあとは砂漠を作っていたことを忘れてしまった。
 
 思えばどうして砂漠を作ろうと思ったんだろうか。気候の問題も砂のこともわからなかったからだろうか。
 砂漠が悪いものだというのは、多分わかっていたと思う。
 私たちは世界を滅亡させたかったのかもしれない。

性悪説か
posted by しょこ at 13:52| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

田園

 遠く、遠くまで、続いていく田園の真ん中で一人の男が死んでいた。

 いつ、男が死んだのか、定かではない。あぜ道の方で死んでいたなら発見も早まっただろうが、男は真ん中にいた。稲が伸びてくると彼の体は完全に隠れてしまい、見えなくなる。腐敗が進んで虫が湧いてくると、その辺一帯の稲が全部ダメになってしまって、そのときになってやっと男は発見されたのだった。
 警察が駆け付けて、東北の小さな村は途端にマスコミでいっぱいになった。しかし、いつまで経っても身元が判明しなかった。男は、裸のまま死んでいたからだ。慰留品も何も、見つからなかった。その村の全員に当たったが、親族や知り合いにも行方不明は一人も出ていない。そのうち事件は忘れ去られた。
 結局「あれ」がそもそも人だったのか、どこからどうやって田んぼの真ん中に行ったのかすら、定かではない。

定かではない文章。
posted by しょこ at 13:51| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ストーカー彼女

 俺の彼女は可愛い。これは自慢ではなく、事実だ。入学当初から可愛い可愛いと人気だったが、大人しくて部活にも入っていなかった彼女は、性格が未調査のままで終わってしまい、結局可愛くて性格のいい子の前に埋もれてしまった。
 その女の子が、先週、何故か俺のクラスの近くに立っていて、俺に話しかけてきた。
「あの、私、先輩のことが好きで、あの、だから、そのジュースのゴミ、いただけませんか!?」
 変な告白を聞いた。
 
 *
 もういいか。続きは妄想でどうぞ。
 
posted by しょこ at 13:49| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

潔癖

 性行為というものが、年を取ると負担にしかならなくなると言うことに、年を取ってから気づいた。気がつくと私は夫と交わることがほとんどなくなっていた。夫は不満に思っていたようで何度か体を求めてきたけれど、若い頃の感度を失くしてしまった私に飽きるのは時間の問題だった。
 
 そんなある日のことだった。部屋の中に何重にも包まれたティッシュのゴミが落ちていた。拾ってみるとそこには、白く粘々としたものが包まれていた。その日、私は夫と喧嘩をした。知らないと言う夫に対し、私は酷い罵声を浴びせてしまった。その日、私はリビングのソファーで眠った。
 次の日もその次の日も、家の至るところでティッシュが見つかった。窓際だったこともあるし、玄関にあったこともある。私はその日からノイローゼのように疲れ果ててしまって、食事は用意するものの、夫とは一言も言葉を交わさなかった。何のつもりだかもわからず、私は仕返しに現金を彼の枕元に置いてやった。やりたければ外でしてくればいい。何も、私に期待することないのに。
 
 それは、何日も過ぎたある日のことだった。物音がして廊下へ出てみると、知らない男が立っていた。手には白いティッシュのゴミを持っていた。
 
『次のニュースです。現在都内を中心に連続強姦魔が出没しており、警察では警戒を強めています。なお、被害女性の家には必ず、ここ最近ティッシュを丸めたようなゴミが家の中に捨ててあったという情報があり、犯人が何らかのルートで部屋の中に忍び込み、捨てていたと見て捜査を進めています。犯人が複数いる可能性も出ており、戸締りに気をつけ、もしそのようなゴミが発見された場合はすぐに以下の番号に連絡をお願いします』


なるべく綺麗にまとめたかったけど、気持ち悪いね。
posted by しょこ at 13:48| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月26日

続かない記憶

「例えばね、私の記憶が長くは続かなくて、明日には全部消えてしまうとしたら、貴方はどうする?」心配そうな目で、彼女は俺に尋ねる。「殴っても泣かせても紐で縛っても、貴方がしたいこといっぱいいっぱいやっても、私の悲しみは長く続かないとしたら、どうする?」
 俺は笑って言った。
「君が覚えてない分、俺がずっとずっと覚えていられるように、精一杯優しくするよ。そして、忘れても何度でも聞かせてあげる」
 彼女は満面の笑みを浮かべて、俺にぎゅっと抱きついてきた。
 
 俺はそんなことが起こりえないと知りながら、
 
 *
 、 で終わる文章。続かないよ。私は続けないよ。
posted by しょこ at 13:16| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

モーリー

 同じ職場に、背の高い男性が居た。いつもはダサい小さな丸渕の眼鏡をかけているが、眼鏡をはずしたときに微笑む姿は本当にかっこよかった。周りは「えー」と不満の声を上げるけれど、私は本当に彼の虜になっていった。
 私は思い切って、彼に告白をしてみることにした。彼は少しだけ困ったような顔をして背筋を丸めて見せてから、申し訳なさそうに「彼女がいるんだ」と答えた。
 私は泣きながら、同僚にその話をした。みんな顔を見合わせて、不思議そうな顔をした。「あの人が彼女と歩いてる姿なんて見たことないよ」と口々にそう言った。私もそう思う。彼ははっきりと断ることができなくて、私にそんな嘘をついたのだ。
 しかし、話が少し広まると、どうやら嘘ではないという線も見えてきた。もう少し年上の先輩から、背の高い女性と歩いているのを数年前に見たと言う話を聞いた。最近は見ていないから、別れて、まだ未練があるということだろうか。もう少し遡ると真相が見えてきた。彼女は事故で亡くなったらしい。
 私がそのことを彼に問い詰めると、彼は困った顔をして、「いいよ。家に来て」と言ってくれた。私は期待して真新しい下着に着替えて、彼の家へと向かった。彼の家は私の家から電車で2本くらい行った場所にあって、男性の部屋にしてはとても綺麗にしてあった。彼の部屋にはぬいぐるみがたくさんあって、確かに女の匂いがした。
「この子が俺の彼女なんだ」
 そう言って、彼は私にそれを紹介した。
「彼女は……確かに事故で死んでしまったけれど、魂はこの子の中にある。今は動いたりしないけれど、俺が一人のときは、しゃべるし騒ぐし、大変なんだ。突然家事をするって騒ぎ出したり、お外に行きたいよって言い出したり。俺の悩みとかもしっかり聞いてくれるんだ。俺、この子のことが好きだから、君とは付き合えない。ごめんなさい」
 両手で包み込めるくらいの、モグラにも似たハリネズミのぬいぐるみを、大事そうに抱きしめながら、彼は言った。
 
 私は持っていた鞄で彼を殴りつけて、それからもう2度と関わらないことに決めた。


はりねずみのモーリー。
posted by しょこ at 13:14| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

同じ物

 私は施設で生まれました。母親と言うものは……いないのだと思います。いえ、なんと説明したらいいのでしょうか。私の卵子を体内で育て、この世に送り出したという点での母は居るでしょうし、卵子を提供した母も、精子を提供した父もいます。勿論、その二つを改造した科学者たちもたくさんいます。私たちに料理を与える人もいたし、一般的な躾を行う人もいました。その全てが、父で、母だけれど、どちらとも言えないのだと思います。
 施設にはたくさんの子どもたちがいました。私より年齢がもっと高い人もいたけれど……、ほとんどは6歳にも満たない子どもでした。私の年齢まで生き残る子は少ないのです。みんな、途中で死んでしまうから。
 私たちはみんな、同じ顔をしていました。私は途中まで、双子のように顔の同じな姉妹たちと暮らしながら、数年前の自分と数年後の自分を見ながら暮らしていたのです。名前はありませんでした。6歳になると模擬的な学校に通うために、名前が与えられましたが、それより前は……。つける意味がないのです。どうせほとんどが死んでしまうのですから。
 姉妹たちが死んでいくのを、私は何度も見てきました。何かの病気のように突然苦しみだす子もいるし、風邪で高熱がでて、そのまま死んでしまう子もいました。私たちは基本的に体が弱く、ほとんどの病原体に対して抗体がありませんでした。科学的に無理矢理作り出した抗体を科学者たちに体に植え付けられて、そのまま死んでしまう子もいました。主に、6歳に満たない妹たちです。死というものが蔓延していて、私たちはその全てに慣れていました。
 奇跡的に生き延びている……姉と、私は、実験的には成功例だとして、丁重に扱われました。人体実験をたくさんしてから、成功したものだけが私たちに与えられるし、妹たちとは全ての扱いが違います。このまま幾つまで生きるか、科学者たちは実験したいのでしょう。しかし、そううまくはいきませんでした。
 姉は……、与えられた名前はバネッサと言います。バネッサは体を病み始め、もう長くはなさそうなのです。私はバネッサに会いたくて、真夜中に彼女の部屋へと忍び込みました。
 姉は、私にうつろな目をそっと向けました。もう、驚くことすら出来ないようでした。
「こんなところ……来ては駄目よ……」
 消え入りそうな声で、彼女は言いました。私は彼女の手を取り、首を横に振りました。彼女は小さな声で呟きます。私は必死に彼女の声を聞き取ろうとします。
「死にそうな姉妹を見るのは……、苦しくはない?」
「……少し。もう、慣れてしまったから」
「そう……、私はずっと、苦しかったわ……」
 彼女の瞳から、涙が零れました。言語以上のことを誰かが教えたわけではないのに、私たちは感情を知っていました。
「いつだって、自分を見ているようだった……。数年前の自分を、数年後の自分を、見ているようだったわ。同じ顔だから……苦しみが全部移ってきそうだった……」
「バネッサ……」
 私の瞳からも、涙が零れてきました。こんな場所でこんな風に生まれなければ、知らなくて良かった悲しみを、私たちはたくさん知っていました。
 私たちは成功例なので、望めばそれなりにいろいろなものが手に入りました。音楽が聞きたいと言えばCDを、本が読みたいと言えば本を、木彫りの彫刻がしたいといえば、ナイフを。
「一緒に逝きましょう、バネッサ。私はこのまま貴女が病んでいくのを、一人で見たくないわ」
 私が取り出したナイフを見て、彼女は困惑したように視線を上下させて、それから私を真っ直ぐに見て。
 微笑んだのでした。
 
 血まみれになったベッドの上に二人の少女が横たわっていた。二人は年齢は違うものの、とてもよく似ていて、どちらも首筋にぱっくりと開いた傷跡があった。二人は寄り添うように抱き合って、その死に顔はとても穏やかだった。
 二人の死をたくさんの人たちが悲しんだ。それでもそれは、彼女たちの存在価値に対してだけで、彼女たちの性格や優しさを失くした人を嘆く人は、誰も居なかったと言う。
posted by しょこ at 13:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

兆し

 どうして私は、彼女の存在に気づいてあげることが出来なかったのでしょうか。

 私は普通のOLをしていました。務めているところは一応大手で、何千人という社員がそこで働いていました。女性も多く、働きやすい職場でした。
 彼女は私にとって、よく気がつく後輩でした。まっすぐで笑顔が可愛くて、口ごたえもしないとても素直な子です。同じ課なので、よく彼女と昼食を共にしました。もちろん、二人きりではなく、いろいろな人と一緒に。彼女は他の社員ともとても上手に関係を築いていました。
 彼女は本当に、よく気がつくのです。仕事もさくさくとこなしますし、たとえば食事のときにゴミが出たりすると、全員の分を率先してまとめて捨てにいくような子でした。どうせ、自分も捨てるしと言って気兼ねなく笑うので、つい私たちはその笑顔に頼ってしまいます。課の中でも、デスクの脇に一人一つずつごみ箱があって、定時になるとそれをしっかり一部屋分回収して、おそうじのおばさんに渡すのも彼女でした。フリーのコーヒーがなくなっていると作ってくれるのも彼女だし、小さな雑用を全て賄っているような女性でした。その全てを、いやいやではなく当然のようにやっている姿は誰の目から見てもすてきでした。

 ある日、私は万年筆をなくしてしまいました。花柄の美しいもので、とても大切にしていたものです。私は彼女にも話を聞きました。彼女は息を飲みました。
「ええ、わかります。花柄の……。すみません、昨日拾って、家に置いて来てしまいました。……盗もうとしたんじゃないですよっ? 今日はちょっとかばんを変えてみたので……。そうだ! 先輩、今日私の家に来ませんか? ペンも返したいし、明日は休みだし、いろいろお話しましょうよ」
 私は彼女の言葉に笑顔で頷きました。

 気がつくと私は小さな部屋の中にいました。私の部屋ではないけれど、しっかり部屋として完成した、住みやすい部屋でした。首には首輪がついていて、そこから鎖も繋がっていました。その部屋には扉がなく、あっても、私の届く位置ではなく、壁一面がガラス張りになっていました。向こう側には別な部屋がありました。そこに、彼女がいました。
「先輩は私のコーヒーを飲んで、眠ってしまったんです。覚えてますか?」
 彼女の誘いに返事をして、彼女の家を訪れて。マンションの最上階にあるとても広い部屋で、私は本当にびっくりしました。
「じゃあ、先輩。これは覚えてますか?」
 彼女はそう言って、白いティッシュのようなものを見せました。見覚えはありませんでした。
「先輩と私が初めて会った日に、先輩が捨てたごみですよ」
 死にたいという言葉は、こういうときに使うのだと思いました。
「他にもね、いっぱいありますよ! 見てください、この部屋にあるもの全部! 先輩が捨てたゴミ、私、いっぱい拾って帰ってたんです。あ、腐敗はしないようにちゃんとしましたから、大丈夫ですよ。私、先輩が本当に欲しかったんです! 先輩が欲しくて欲しくて、こんな部屋まで作っちゃいました。防音室を改造したんです。叫んでも無駄ですよ」
 欲しい。彼女はそう言いました。彼女にとって私は人形で、私はおもちゃに過ぎないのです。
「先輩は今日からここで暮らすんですよ。無理はしちゃだめです。あ、あたしは先輩が死んじゃっても先輩の体とーっても大事にしますけど、死ぬの、苦しいと思いますよ。私は先輩が大好きなので、先輩を幸せにします!」

 私が半年間捨て続けたごみが、神々しく壁に張られて飾られてありました。
 それらに見守られながら生きていく。

 私はそのとき、何もかも忘れて狂いたくて仕方がなかったのです。


これはホラーです。
posted by しょこ at 13:12| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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