2009年05月04日

めんどくさい男

 彼は、律儀な男だった。いかにもA型といった感じで、優しくて、かっこよくて……。女友人の恋人たちはみんな、彼氏が雑だとかプレゼントをくれないだとかで悩んでいるけれど、彼は違った。付き合った記念日も、誕生日も、クリスマスも……。一度も忘れたことはなかった。私はそんな彼が大好きだった。
 けれど、彼を昔から知る人たちは口々に、「彼と1年以上付き合うのは無理だ」と言う。私が「どうして」と尋ねると、みんな口を噤んでしまう。「彼は優しくて素敵な人よ」というと、「そうだろうね」と言って苦笑いする。そうして半年のお祝いも、一年のお祝いも迎えた。
 おかしいなと思ったのは、本当に1年過ぎたころだった。その頃から、彼は少しずつイライラするようになっていった。
「ねえ、君は今日何の日か覚えてないの?」
 そんなふうに私に何度も尋ね始めた。一年の記念日も終わったし、誕生日も違う。私は何度も首を傾げた。
 そうして、彼は遂に私に対して怒りを露にした。
「どうして君は何も覚えていないんだ!?」
「だから……なんのこと? 何の日だって言うの?」
「決まってるじゃないか、今日は! 付き合い始めて初めて君と長電話した日だよ!」
 
 彼と別れてから、彼の知り合いと会うことがあった。私が別れたという話をすると、彼は「そうだろうなあ」と苦笑いをした。
「言っていいことかどうかわからないが……。あいつに恋人ができたらしい」
 そうですか、と言って笑った。未練は少しもなかった。
「その女性……、自分が今過ごしてる全てのことが記念日になってることに、気付かずに生きるんですね」
 そうだろうなあと言って笑った。
posted by しょこ at 22:06| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

(゚U。)

 変な顔文字が流行り始めた。上下にななめった目に、大きな口。これがどんな感情を表しているのか、俺は知らない。ただ、ここ最近この顔文字だけがぽんと書かれたメールがよく届くのだ。
 顔文字のほかには何の文章も書いておらず、しかもあまり接点のない人間ばかりから届く。俺はいつも対処に困って、そのまま返信もせず放置していた。
 ある日、ここ数年連絡を取っていない友達に連絡をしなければならない用事が出来た。そいつは以前にその顔文字を送ってきたのが最後だった。メールを送ってみると、すぐにエラーメールが返ってきた。電話も、繋がらなかった。
 俺はその変な顔文字を送ってきた他のメンバーにもメールを送ってみた。次々とエラーメールが舞いこんでくる。どういうことだ!? 俺は怖くなって必死に電話をかけたが、どうしても繋がらなかった。
 みんな、どうなってしまったのだろうか。あの顔文字は失踪するっていうサインだったのか? 俺にはもうそれすらもわからない。

「ね、なんか変な絵文字送られてきたんだけど。なにこれ。キモい顔ー」
「なに? どういうの?」
「(゚U。)」
「えー、これ、今超有名だよ!」
「え。なにそれ」
「メアドとか番号とか変えたとき全員に送るのめんどいじゃん。電話帳とかすぐ増えるし」
「うん」
「そんで、もう消してもいいかなって人に(゚U。)って送るの。返信がなかったら、消していいってこと」
「まぢで。どうしようー。こいつ消していいかなー?」
「消しちゃえ消しちゃえ」
「まあいっかー。削除っと。あたしも何人かに送ろうかな。……送っていい?」
「いいけど、返信しないよ?」

*
淡白な社会になりました。
posted by しょこ at 22:05| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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