2011年11月01日

指切り

「いち、にぃ、さん……し……」
 彼女はにこにこ笑いながら、大切なコレクションの数を数えている。彼女の外見は、お洒落に常に気を遣っている年頃の女の子そのもので、普通なら何か可愛いコレクションでも集めていそうな顔で。
 それを、
 数えている。

 この街で不可解な事件が起き始めたのは、4カ月程前のことだ。28歳サラリーマンの男性が会社からの帰りに何者かに襲われた。彼は眠らされており、目を覚ますと、彼は両手の小指を失っていたと言うのだ。命に別状はなく、本当に、小指以外には傷一つなかったらしい。
 それからも同じ事件はたびたび起こり、警察は目下犯人を捜索中だ。最近では警察の無能さを咎める声も出ている。
 小指を切り落とすという行為から、指を詰めるという儀式が連想された。私も、被害者は皆、実はそういう関係の人たちと繋がっており、……まあ、そういうことなのかもしれないなどと、ニュースを見ながら思っていた。
 彼女に話を打ち明けられるまでは。

 彼女は小指を数えている。切り落とされた両の小指。年齢は10代後半から最年長は50過ぎだったと思う。その小さな指を彼女はガラスのケースに防腐剤と一緒に詰める。そうして、うっとりとした瞳でそれを眺め続ける。まるで宝石みたいに。
「どうしてなの」
 私は大切な友達だと思っていた少女からそんな話をされて、すぐにその疑問を口にした。
「小指がなければ、指切りが出来ないでしょう?」彼女はそれがさも当然であるかのように笑った。「指切りが出来なければ、誰とも約束出来ないの。そうすれば、守れない約束に誰かが傷付くこと、ないでしょう?」
 わかるようで、わからなくて、怒りとも、悲しみとも違う感情が沸き上がってきた。それでも、私は彼女といることを選んだ。

 彼女は小指を集めている。けれど、犯人は決して、彼女ではない。犯行時間と思われる時間、彼女は学校におり、もしくは私と一緒にいたのだから。
 大の大人が襲われ、小指を切り落とされ、そうして犯人はまだ見つかっていない……。小指を持っているのは彼女だけれど、犯行は別の人間……、それも、一人とは限らない。
 彼女は「小指がなければ約束できない」と言った。約束がなければ、傷つかなかった人がいる? 彼女は小さな罪人の、小指を集めている?
 何か大きな組織があって、何か大きな理由があるのかもしれない。私が聞くことなど出来ないけれど。

 帰宅の時間が近付いてくる。私の小指は、まだある。帰り際になると、彼女は少しだけ寂しそうな顔をする。
「また明日ね」
 私が言うと、彼女は嬉しそうに微笑んでみせる。
 私はまだある指で、彼女と今日も、「指切り」をするのだ。
posted by しょこ at 19:36| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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