2009年03月26日

モーリー

 同じ職場に、背の高い男性が居た。いつもはダサい小さな丸渕の眼鏡をかけているが、眼鏡をはずしたときに微笑む姿は本当にかっこよかった。周りは「えー」と不満の声を上げるけれど、私は本当に彼の虜になっていった。
 私は思い切って、彼に告白をしてみることにした。彼は少しだけ困ったような顔をして背筋を丸めて見せてから、申し訳なさそうに「彼女がいるんだ」と答えた。
 私は泣きながら、同僚にその話をした。みんな顔を見合わせて、不思議そうな顔をした。「あの人が彼女と歩いてる姿なんて見たことないよ」と口々にそう言った。私もそう思う。彼ははっきりと断ることができなくて、私にそんな嘘をついたのだ。
 しかし、話が少し広まると、どうやら嘘ではないという線も見えてきた。もう少し年上の先輩から、背の高い女性と歩いているのを数年前に見たと言う話を聞いた。最近は見ていないから、別れて、まだ未練があるということだろうか。もう少し遡ると真相が見えてきた。彼女は事故で亡くなったらしい。
 私がそのことを彼に問い詰めると、彼は困った顔をして、「いいよ。家に来て」と言ってくれた。私は期待して真新しい下着に着替えて、彼の家へと向かった。彼の家は私の家から電車で2本くらい行った場所にあって、男性の部屋にしてはとても綺麗にしてあった。彼の部屋にはぬいぐるみがたくさんあって、確かに女の匂いがした。
「この子が俺の彼女なんだ」
 そう言って、彼は私にそれを紹介した。
「彼女は……確かに事故で死んでしまったけれど、魂はこの子の中にある。今は動いたりしないけれど、俺が一人のときは、しゃべるし騒ぐし、大変なんだ。突然家事をするって騒ぎ出したり、お外に行きたいよって言い出したり。俺の悩みとかもしっかり聞いてくれるんだ。俺、この子のことが好きだから、君とは付き合えない。ごめんなさい」
 両手で包み込めるくらいの、モグラにも似たハリネズミのぬいぐるみを、大事そうに抱きしめながら、彼は言った。
 
 私は持っていた鞄で彼を殴りつけて、それからもう2度と関わらないことに決めた。


はりねずみのモーリー。
posted by しょこ at 13:14| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック