2011年05月20日

リボン

 それは伝染病のように。
 
 私の通っている女学園で、1週間前まで、髪にリボンを付けていた子はいなかったと思う。私の記憶している限りだけれど、校則違反にも近いようなイメージだった。
 けれど数日前から流行り始めて、今ではクラス中、いや全校生徒のほとんどが髪にリボンをつけている。昨日付けていなかった子も、何やら誰かと話をしていて、今日は付けてくることにしたらしい。
 髪の長い子は髪を結んでそこにリボンを付けて、短い子はカチューシャのように。色は自由らしくて、茶色とかえんじとかいろいろだった。紺の制服に似合うなら特に問題はないみたいだった。
 
 今ではその輪の中に加わっていないのは、私を含めて数人しかいない。これが流行というやつなのだろうかと、私は酷く辟易している。こういうものが私は嫌いだった。みんながみんな同じようなものを身につけ、手を伸ばし、それに染まろうとしない人間を排除するような風潮……実に馬鹿らしいと思う。一緒でなければいけないなどと誰が決めたのだろうか? 制服も一緒で、他の物も一緒にして?
 私はそんなもの信じない。そんなふうにはならない。独立した、孤高の存在でありたいのだ。だからこそ、誰も私に話しかけなくても、全く気にはならない。私は間違っていない。私がおかしいわけではない。私は今の自分に誇りを持っている。だから……
 だから……
 
  ◆
  
「間引いたの」
 間引くだなんて言葉は、久しぶりに聞いた。以前に聞いたのは、確かガーデニングをしてみようと思い立った時だったと思う。等間隔に草が並ぶように、必要のないものは引っこ抜いてやるのだ。
「適当に殺すだなんて、芸がないでしょう? だからね、噂を流したのよ。その日までに髪にリボンを付けていない子は、殺人鬼に殺されてしまうって」
 彼女は平然と言いのけた。汚れた手で、髪を後ろに払う。
「だから殺したの」
「それって、理由になってるの?」
 彼女との付き合いは長いけれど、彼女の考えは理解できないし、一生したくない。
「なってるわよ。大切に思われている人は、その話をするでしょう? 真偽はわからなくても、貴女に死んでほしくないのだと伝えるでしょう? 素敵よねぇ、幼いながらの青春って感じで」
「……じゃあ、貴女に殺されたのは」
「そう、誰にもそう思われていない人間。それから、信じようとしなかった、自殺志願者かしらね?」
 まあ、どうでもいいけど。
 彼女はそう言ってあくびをする。退屈そうに、私の方を見つめる。
 殺した癖に。人を、殺めた癖に。彼女はそれを反省したことなど一度もない。
「考えてみて。たくさんの人が後悔するの。『噂が本当だったなんて』『ああ、あのとき声をかけていれば』『私があの時声をかければ彼女は死ななかったのに……』……たくさんの感情が渦巻いて、罪悪感という酷い悲しみが押し寄せるの」
 彼女は恐ろしい人間だ。普通……いや、普通なんてわからないけれど、少なくとも私の想像では、人を殺す人間なんて、人の痛みをわからない欠陥製品か何かだと思っている。けれど彼女は違う。人が亡くなる痛みを知っている。胸が締め付けられるように苦しいであろうことを、想像して、理解して、わかって、殺す。
「私を殺したら、あなたの退屈はなくなるの?」
 私が尋ねたら、彼女は一瞬悩んでからにっこりと笑って見せた。
「一瞬は、楽しいと思うけどね。でも、一瞬じゃあしょうがないし」
「一瞬」
「そう。こうやって話していれば、貴女は一生そんな憎しみに満ちた表情で、私を見つめてくれるのに。そっちのほうが、ずっと楽しい」

 彼女はまたきっと、誰かを殺すのだろう。勝手な理由を勝手にでっち上げて、私の表情を歪めるためだけに。
 彼女を許せなくても、命すら握られている私は、ただ生かされているだけの私は。
 ただ、終わりを祈るのだ。続いて行く憎しみも感情も全部終わって、彼女が愉しみを感じることがなくなればいいと。それは人が人である限り、不可能なことなのかもしれない。私は人間らしい真っ直ぐな感情を抱くからこそ、生かされている。
 
 狭い部屋に、監禁されたままで。
 

きもちわるいはなし。
posted by しょこ at 00:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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