2013年09月08日

夢を食べる

「君の夢は本当に美味しいね」
 彼女はそう言って、朝、俺の隣でニコニコと笑った。
 対する俺は、目覚めが良くないけど。

 彼女は獏だ。バク……古代中国の伝説で、夢を食べると言われている動物。本当は人の形をした、謂わば吸血鬼みたいな生き物らしい。ただ、吸血鬼とは違い、ちゃんと生きてるし、人間と同じように死ぬ。ただ、人間と同じようには生きられない。夢を食べなければ、身体を保てないのだと、彼女はそう言っていた。身体を保てないという意味がよくわからなかったけれど、要するに死ぬと言うことらしい。
 彼女は普通に獏として生まれて、学校とかも通いながら普通に生きてきて、普通に就職して、そうして俺に出会った。
 付き合ってすぐはそのことは知らなかったけど、夜中によく家を抜け出すのでそれでおかしいと思った。問いただすと「私は獏なの」とか言い始めて、「その辺で寝てたおっさんの夢を食べてた」とか言いやがったので超怒った。「羽とかないし、人様の家に不法侵入は出来ないんだよ」とか言い始めて、しばらく喧嘩した。
 彼女の言葉を信じられなかった俺は(まあ今も到底信じられないんだけど)、とにかく一緒にいるときは外に出るのを禁じた。本当に夢を食べるとか言うなら、俺のを食べればいいと。
 その日から、「美味しい」と彼女は俺の夢を食べるようになり、俺は悪夢にうなされるようになった。


「夢が美味しいってどんな感じ?」
 なんとなく、まだ信じちゃいないけど、そう尋ねてみる。
「うーん、なんかね、食べたあとに幸せになる……みたいな」
「よくわからん」
「食べるとは言っても、口から食べる訳じゃないから、味とかじゃないんだよ。だから、風味? 食べ心地? 舌触り? なんかそういう感じ」
「……よくわからん」
「そういうの聞いてくるってことはさ、やっぱり信じられない? それとも、気持ち悪い?」
 心配そうな顔で尋ねてくる。こういう仕草はやっぱり可愛い。可愛いしいい子だから、自分を獏だとか言い出す変な子でも仕方なく許してしまう。
「信じられないのはちょっとあるけど。別に夢を食べられるのは嫌じゃないよ。ちょっと目覚め悪いくらいだし」
「なら良かったぁ」
 安堵したように、また笑う。笑うと小さなえくぼができて、それがまた可愛い。
「じゃあ、食べるってどうやるんだ? ……質問攻めで申し訳ないけど」
「そんなに難しいことじゃないよ。まず、体の一部……服の上からじゃなくて皮膚に触ってぇ」
「ちょっと待った。……今までいろんな人にそうしてきたのか?」
「え? うん」
 寝ているおっさんに触ってる彼女を想像したらなんかゲロ吐きそうになった。辛い。胃が痛い。
「別に不埒なことしてるわけじゃないよ。食事なんだから仕方ないんだよ?」
「……そういう問題じゃない」
「寝てもないし、ご飯だとしか思ってないよ?」
「言うなってば」
 イライラして彼女の頬を優しくひっぱる。「うー」と苦しそうな声を上げられた。
「というか、別に知らない人のやつ食べることないじゃん。知り合いとかさ、女友達とかさ」
「あのね、知り合いの人のは、本当は食べちゃいけないんだよ。そういう約束、なの」
「約束? なんで?」
「夢ってね、いろいろ出てくるから。願望とかもあるし、その人が相手をどう思ってるとかも。それで私たちはそれを、食べる時に、『見えちゃう』のね?」
「……ああ」
 なんとなく、わかった。見てしまったら、交友関係が壊れてしまう可能性があるわけか。
「しかも、食べちゃうとね、夢が壊れちゃって、内容がちょっと悪夢っぽくなるの。目覚めた感じも悪くなるし」
「そういうことか。なんとなくわかった」
 だからこそ、知り合いにはなるべくしちゃいけない……したくないってことなんだろう。
「だから酔っぱらいのおっさんは最適なの」
「おっさんの話やめて」
 確かにその辺のおっさんなら、知らない人だし、別に目覚め悪くてもその辺で寝てるせいだし、だけど超いやだ。絶対いやだ。
「まあ、食べていいって言って貰ったし、しばらくは甘えさせてもらうことにしまーす」
 彼女はそう言って、甘えるようにぎゅうと抱きついてくる。髪を撫でてやると猫みたいに目を細めて、ごろごろと甘えてきた。可愛い。超可愛い。俺はこんな可愛い彼女が出来て超幸せ者だ。あとおっさんの話だけしないでくれれば完璧だ。
「……ん? ってことは、俺の夢も見えてるんだよな?」
「うん」
 さらりと、そう言われた。それを考えると、やっぱりちょっと抵抗がある。
「大丈夫だよ! 君の夢超くだらないし超面白いよ! こないだの夢で、課長が突然……」
 無性に腹が立ったので、とりあえず頬を優しくつねってやった。とりあえず大人しくなった。
「うう、とにかく、そう言う感じなんだよ。人を悪くしたり、願望を現してるみたいな、そういうのないの。だから、美味しい」
 つねられるのが嫌だったのか、俺の胸にぐりぐりと顔をうずめてきた。
「そういうところも、大好きだよ」
 恥ずかしげもなく、そう言う。俺もこういう、彼女のまっすぐなところは大好きだ。調子に乗りそうだから言わないけど。
 彼女の言っていることが本当に本当なのか、それともそういう設定的なあれなのか、まだちょっと信じられないけど。だけど夜中に出て行かないでくれて、こんなに可愛い笑顔を向けてくれるなら、まあいいかとも思う。
「あ、あと一つ、忘れてた」俺に抱き着いたまま顔を上げて、彼女は何かを思い出したように言った。「あのね、全部食べてるんじゃないの。つまみ食いくらいなの」
「……え?」
「だからね、夢。夢はね、全部は食べてないの。ちょこっとだけ、がじってするくらい。全部は食べないんだよ」
「……全部食べるとどうなるんだ?」
「うーん、死んじゃう? 食べられた人が」
「え……?」
「うーん、死なないかな? ショック死とかはあるって聞いたけど、死にはしないかな? 廃人になる? そんな感じで、とにかくやばいんだって」
「お、おう……」
「獏の中にはそういう商売してる人もいるんだってぇ。殺し屋さん的? やっつけ屋さん?」
「おう……」
 超怖いこと言われた。抱きしめられてるから動けないけど、ちょっと離れたくなった。
「……全部は食べないよ? 大丈夫だよ? お腹いっぱいになるし、私も苦しそうだもん」
「……食べないでください」
「食べないよぉ。……でもね、あんまり変な夢見てたらね」
 俺を見上げながら、あーんと、口を開けて見せる。それから、にこっと笑う。えくぼはできない、悪戯な笑み。
「食べちゃう、かも。ぜぇんぶ」
「……食べないでください」
「夢の中でも浮気だめぜったーい。がぶーっ」
「……服をかじらないように」
「んむー」
 全く。自分のことは棚に上げて、嫉妬深い。
 だけど、いちいち仕草が可愛くて、年不相応で、まっすぐで、ちょっとおかしい。
 これからのことはよくわからないけど、とにかく今は、彼女と一緒に居たい。

 彼女は夢を食べる。
 自称・獏の、俺の恋人。



SS強化期間ー☆
普段はお仕事で恋愛物いっぱい書くのでお話書こうとすると自然に暗い暗いほうに行ってしまいがちなのですが、
さっきモバマスでSレア芽衣子ちゃん引いたのでテンションMAXです!!!!!
寝る前に突然思いついたのでがーっと書きましたが、この子可愛いですね!!ラブコメって素敵ですね!!!
また書きたいなー。
posted by しょこ at 02:27| Comment(2) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今回の“夢を食べる”読ませていただきました!
甘えて抱きついてくる仕草や、大好きっと言う台詞も凄く可愛いですね(*´▽`*)...でも「俺の彼女、獏なんだぜ(*゚▽゚)♭☆」なんて言えませんね(^_^;

最後に読み終わって自分の一言「浮気したら....ヤバいな..(゚ω゚:)」でした。

御厨先生の小説は読んでいてだんだんやみつきになってしまいます(≧▽≦)次回も楽しみです!
Posted by サイふぁ〜 at 2013年09月09日 02:48
またまたコメントありがとうございます〜!
久々に甘いの書いたらなんだか止まらなくなってしまって精一杯甘えさせました!!可愛い!!!(≧▽≦)
誰にも言えない秘密みたいなのがいいですよねっ!

寝る前にAVとか見たら最後……!!(危険

ありがとうございます!これからもいっぱい頑張ります!
Posted by しょこ at 2013年09月11日 02:42
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