2013年10月23日

首が落ちる夢

 夢の中の私は、首を押さえている。まるで自分の首を絞めるように。
 そうして、その手を、放す。
 私の首は、酷く変色して、青紫色になっていて。それは映画で見た、ゾンビか何かのようで。
 そうして首だけが爛れて、いて、ついには、ちぎれるように、頭が、落ちる。


「疲れてるのよ。ちゃんと、寝てる?」
 友人に夢の話をしたら、酷く心配されてしまった。私は困ったように首を傾げる。
「……あんまり寝れてないわね?」
 私は言い辛そうに小さく頷く。不眠症とまではいかない。だけど、あまり眠れていないのは事実だった。
 昔から、あまり寝るのは得意ではなかった。疲れていても、ちょっとでも何か考え込んでしまうと、すぐに眠れなくなってしまう。そういう性質なのだと、今までは諦めてきた。けれど、ここ最近の夢は、自分でも狂気じみていると思う。
 そっと、自分の首に触れる。柔らかい、自分の肌。夢の中ではこれが、ざらざら、ぬめぬめ……夢の中だし、分かりはしないんだけど、そんな感じがする。傷一つない、綺麗な首。それがどうして、あんな夢を見るのか。
「自殺願望とか、あった? 未遂とか……」
「ないよ。今のところ」
「今のところって……、うう、やっぱり怖い。病院、行きなよ?」
 小さく頷いて、彼女に答える。病院に行くつもりは、なかったけれど。

 小さい頃から、どちらかというと後ろ向きな子だったとは、思う。終わってしまったことばかり、気にしていた。気にして、次回はこうしようなんて思ったって、次回なんてないのに。
 大人になって、考えることは減ったように思う。……違う、減ったと言うか、減らされた。体が拒否をする。外せないお仕事や用事が私を縛り付けて、がんじがらめにして。辛くても、悲しくても、ずっと悩んでいられない。悲しんでいられない。頭の中に箱を作って、とりあえずその中に入れて。そうしている間に楽しいこともあったりして、箱のことは忘れてしまう。
 だけど、そんな私の気持ちも知らないで、誰かが些細な一言で、箱を開ける。仕舞ったままでいる私を責めるみたいに。
 結局は体の限界が来て、眠ってしまうのだけれど。昔みたいに、考える時間が取れないのは事実だった。箱の中に、いろいろなことを詰め込んでいる。
 ううん、昔と違って、考えても答えの出ないことが、増えた。
 だからこのまま開けないのが、本当は、一番いい。

 夢の中の私は、首を押さえている。爛れた、首。
 首の骨も腐敗して、ぼろぼろになっているだろう、私の、首。
 どうして現実の私の首は、綺麗なままなのだろうか。
 爛れた首は、考え続ける頭を、支えきれない。
 落ちる。
 その瞬間が、たまらなく、嬉しい、愛しい。
 夢の中だからか、その一瞬だけがスローモーションで、頭が、落ちて行って、私はどこでそれを見ているのかわからないけれど。
 やっと、これで、答えの出ない、連鎖が、終わる。
 それが本当に、嬉しくて、愛しい。

 夢の中で自分の頭が地面を転がった瞬間に、私の目は覚める。首はまだ、繋がったままだった。
「……死にたい、わけじゃ、ない」
 小さく、呟く。死にたいわけじゃない。楽しいことだってたくさんある。
 だけど、それ以上に、考えなきゃいけないことが、向き合わなきゃいけないことが、本当はたくさんある。たくさんあって、答えは出なくて、それがきっと生きていく限りこれからも溜まっていく。
 それから解放されたいだけ。
 首が落ちる、夢を見る。
posted by しょこ at 05:18| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック