2014年02月14日

同じ顔とチョコレート

「はいっ、お姉ちゃん! バレンタインおめでと〜っ」
 そう言って私の双子の妹は、私に小さな箱を差し出してきた。
「……は?」


(翠の海、空音と陸乃のSSです。
ネタバレまみれなので未プレイの方はお気を付けください)

「チョコレートだよっ、バレンタインだもんっ」
 私と全く同じ顔をした妹――陸乃は、そう言ってニコニコしている。どこから突っ込んでやったらいいものか。
「まず、バレンタインって、古代ローマのバレンタインさんの命日とかじゃなかったっけ」
「えっ!?」
 よく知らないけど、確かそんな感じだった気がする。処刑された日だとか。
「だから『おめでとう』はおかしい」
「そ、そうだったんだ……。ごめんなさい……」
 陸乃はしゅんと落ち込んだ表情を見せ、手に持っていた箱を引っ込める。よし、もういいかな。
「それじゃ」
「まっ、待って! お姉ちゃんにっ、プレゼントなのっ! これ……」
「だから、なんでよ」イライラしてきて、少し冷たい口調で答える。「そんなの、好きな人にあげるものでしょ?」
「え? お姉ちゃん、好きだよ」
「そうじゃなくて」
 陸乃の持ってる箱の包装紙をちらりと見る。一部に折り目があって、多分失敗したのを何度かやり直したんだと思う。つまり、あれは既成品ではなく、陸乃が用意して、自分で包装したもの。多分、手作り。
 全く……重い。
「いらないわよ。好きな男の子にでもあげたら?」
「いっ、いないよっ! 出会いとか、ないしっ」
 女子校だし。それはわかるけど、なんとなく、受け取りたくない。
 私はこの子が嫌いだ。人に甘くて、頭が悪くて、優しくて、明るくて、天使みたいで、みんなに好かれるこの子が嫌い。見ているとイライラして、一緒になんか居たくなくて、本当はこの家から出ていきたい。出来るのなら整形して、別の顔になりたい。
 どうせそのお菓子だって、誰かに手伝ってもらって、たくさんの人の分を作ったに違いない。お手伝いさんみんなの分に、お父様とお母様の分に、お友達の分に……。私のはそのついで。その一部を、『大好き』とか『お世話になってる』とか、いろんな言葉でごまかして、みんなに好かれようとしてる。本人は何も考えてないんだろうけど。
 そういうのって、本当に、腹が立つ。
「も、貰ってもらえない……かな」
 恐る恐る言い、陸乃は私の顔色を窺っているようだった。私が最近陸乃が嫌っていること、……陸乃だって気付いてる。酷い言葉を投げつけたことだってある。それでも彼女は変わらずに私に話しかける。そういうのがまた私を辛くさせるとも知らないで。
「……どうせ、みんなのついでに作ったんでしょ」
「ち、違うよっ。みんなの分も作ったけど……、お姉ちゃんのは、別で作ったの。だから……」
 『だから』……何よ。目に涙とか浮かべちゃって。そんなんで私が騙されるとでも思ってるの?
 大嫌い。私と同じ顔をした妹。そうやってればみんなに好かれて、私が苛立って当り散らせば、みんな陸乃に同情して。その構図も何もかも、全て気に食わない。
 だけど……。
「いいわ。受け取ってあげる」
「本当っ!? あ、ありがとうっ!」
「なんであげてるあんたがお礼言うのよ……」
「だって、受け取ってもらえるの、嬉しいもん。だから、ありがとうっ」
 気が向いただけ。今日だけ特別、優しくしてあげてるだけ。明日から私はまた冷たくして、きっと毎日陸乃は傷付くんだろうから。だから、今日だけ特別。
「はい」
 私はポケットに入れていた小さな箱を、陸乃に渡す。
「え……? これ……」
「あげるわ。偶然、持ってたの。偶然。自分で食べようと思って買ったんだけど。偶然持ってたから、あげる」
 そう、偶然。偶然……美味しそうだから、買っただけ。
「わあ……!」
「手作りじゃないけど、それ結構高いんだからね」
「ありがとうっ! お姉ちゃん、大好き!」
 陸乃はそう言って私に抱きついてくる。邪魔。重い。だけどまあ……いいか、今日だけ。
 こんな柄に合わないことをするのも、たまになら、悪くない。
「ねえ、今から一緒に食べようよ〜」
「嫌。私、今から行くところあるし」
「え? どこ行くの? 男の子のところ?」
「行かないわよ!」思わず声を荒げてしまう。「……沙羅のとこ」
「あっ、私も今から行こうと思ってたの! 一緒に行こう?」
「嘘つき。今、お茶しようって言ったじゃない」
「お姉ちゃんがチョコくれたからだよ〜。そうじゃなかったら沙羅のところ行くつもりだったもん」
 よくもまあそんなぬけぬけと。平然と笑えるものだわ。全く信じられない。
「えへへ〜」
 私と同じ顔が、へらへらと笑いながら私の手を握る。私はこの子が、本当に大嫌い。いつでもニコニコしてて、みんなに好かれて。考え方だって前向きで、私のように卑屈じゃなくて、当り散らしたりしなくて、そういうのも全部全部、嫌い。大嫌い。
 だけど……。
「……今日だけね」
 よれた包装紙の包み紙を見ながら。
 私は小さく呟いて、彼女の手をそっと握り返した。




ばれんたいーん。
前回クリスマスですねクリスマスとか言ってましたが、ちょっと忙しくて書けなくて、
そのまま正月とかも書けないままになってしまいました……。

今回はゆき恵さんがTwitterでバレンタイン壁紙のアンケート取ってて、
それに私も返信しようか超悩んで、
「恥ずかしくて真っ赤になってる空音にチョコ食べさせる陸乃ください」とか、
「二人で1枚のハートのチョコ齧ってる空音と陸乃ください」とか、
なんかいろんなこと考えてたら一人でヒートアップしすぎてしまって、
流石に送れなかったです!!!!
そういうわけで双子です。双子可愛い。
いろいろ考えましたが洋館に行く前の過去編みたいな感じになりました。
ちょっと幼い双子ちゃん。ああ可愛い。

お読みいただきありがとうございました〜。
今日はもうしばらくお付き合い頂ければ幸いです! リア充爆発させないと……(使命



Cabbitデビュー作「翠の海」応援中!


おまけ

「もしもしっ、沙羅っ! 陸乃のお菓子食べた!?」
『は……はい……』
「超まずかったでしょ!? 捨てていいからね!!」
『いえ……、ちょうど食べてまして……超美味しいです』
「あんた、『超』とか言うのね」
『と、とても……とても、美味しい……その……』
「残せ! 食べちゃだめ!」

posted by しょこ at 14:05| Comment(0) | TrackBack(0) | SS・2次創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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