2014年06月08日

あたしにとって、特別な日

 一日中、雨が降っていた。降ったり、止んだり。ざあざあと強くなって、かと思えば弱まって。不安定で、じめじめしてて、肌寒いようなそんな一日だった。まあ、今のあたしは湿度も気温も感じることはできないんだけど。
 それでも今年も、年に一度その日は来て、梅雨に入っちゃうから雨の日が多くて、ちょっとだけ、気分が沈んで。
 六月八日。あたしにとっては、特別な日。

(『キミへ贈る、ソラの花』、東瀬まつりちゃんのSSです。
ネタバレはあまりないですが、未プレイの方はお気をつけください!)
 この日になると、あたしは一日中どこかそわそわして、落ち着かなくなる。どうしたらいいのかわからないと言うのが、本音かもしれない。
 誕生日。生きていたころのあたしが、生を受けた日。だけど……あたしは既に死んでいる。死んだ後に誕生日なんて、祝うのかな。どうなのかな。
 幽霊になって……学園に通って、幽霊のお友達も、幽霊の見える人間のお友達もいっぱい増えた。だけど、自分の誕生日だけはどうしても言えない。なんとなく、おかしいと思われるのが怖くて、言えない。
 死んだあたしにとっては、あたしが死んだ日……命日が、あたしの新しい誕生日になるのかな。確かに、お墓参りだって、命日に行うことが多いし、誕生日は……生きている人たちのものって、そんな気がする。だけど、生きている間ずっと覚えていた、年に一度の特別な日……それをなんでもないただの一日には、どうしてもできずにいた。
 毎年、そう。アジサイが咲き始めて、雨が多くなって。カレンダーを見つめて、今年は何曜日だなんて思って。誰かに打ち明けようか悩んで、少しだけ寂しくなる。
「……寒いなぁ」
 もちろん、体がないから寒さなんて感じないんだけど。それでも、しとしとと降る雨が、寂しくて……寒い。
「……何してるの?」
「由梨」
 由梨は、あたしと同じ幽霊のお友達。……あたしよりも何十年も前に幽霊になった子で、あたしよりいろんなことを、良く知っている。
「……なんでもないよ」
「あらそう? まつりは梅雨になると元気がなくなると、思ってたんだけど」
 見抜かれているようで、口を噤む。由梨にはなんでもすぐ気付かれちゃう。
「雨が嫌い?」
「……そうじゃないよ。好きってわけじゃないけど……でも……」
 雨が嫌いなんじゃない。確かに気分は落ち込むし、外は暗くなるし、だけど……。
「由梨、あたしね……今日、誕生日なの」
「あらそうなの? おめでとう」
 由梨は特に抵抗もないようで、普通に「おめでとう」と言った。だけど……少し、苦しい。
「お、おめでとうで……いいのかな」
「どういうこと?」
「だって……、あたし、死んでるし……。死んでるのに、おめでとうとは、言わないよね? どう……なるのかな。あたしの誕生日、命日になる?」
「……それを、ずっと考えていたの?」
 あたしは言い辛そうに、小さく頷く。小さな悩みと、笑われるかもしれないと思った。だけど、由梨は笑わなかった。
「ねえ、まつりにとって誕生日って、何をする日?」
「何をするって……誕生日をお祝いする日……?」
 おめでとうって言いあって、親しい人とケーキを食べて。プレゼントなんかも貰っちゃったりして。年に一度だけの、特別な日。誕生日って、そういう日なんじゃないのかな。
「そうだけど、どうして誕生日を祝うのだと思う? まつりは大事な人の誕生日に、何を思う?」
「……それは……」
 おめでとうって。今年も無事、誕生日を迎えられましたって。年が、一つ増えて。嬉しいことだと思う。幸せなことだと思う。だけど、だからこそ、死んでしまったあたしには……関係ないように、感じてしまう。
「私たちが死んでしまったのも本当だし、もう、年を取ることも出来ないけれど。だけど、生まれてきて、生きていたって言うのは本当だわ。だから、まつり。生まれてきてくれてありがとう。お誕生日、おめでとう」
「……由梨……」
 生まれてきてくれて、ありがとう。由梨は、あたしにそう言ってくれた。なんて言ったらいいか、わからない。それでも……胸が苦しくて、すごく、嬉しい。「それとも、まつりは生まれて来なきゃよかったって、思う?」
「……思わない。あたし、長くは生きられなかったけど……生まれてきて、良かったよ」
 長くは生きられなかった。誕生日の記憶だって、多くない。だけど、生まれてきて良かったと、思う。未練があって、幽霊になっちゃったりもしたけど、それでも今は、幸せで……楽しいから。
「そう……。じゃあ細やかにだけど、今から何人か呼んで、お祝いしましょうか? ケーキもシャンパンもないけど」
「うんっ!」

 あたしはもう、年を取ることはできないけれど、それでもこの季節を、もう辛いとは思わない。じめじめして、雨ばっかりで、明るい季節じゃないけど、それでもあたしにとって、大事な日なんだ。
 今年は出来なかったけど、今度、あたしの大事な友達にも伝えよう。もう、恐れることはない。誇りを持って、伝えられる。

「あのね、あたしの誕生日は……」

 あたし、この日に生まれて来れて、良かった。




まつりちゃんお誕生日おめでとー!
本当は140字に納めたかったのですが厳しかったのでSSになりました。
時間ぎりぎりだー!

というわけでまつりちゃんのお誕生日、祝ってくださった皆様、本当にありがとうございました!
まつりちゃんは幸せ者ですね……!
発売から1年以上経って、こんなに愛してもらえて本当に良かったです。

私事(?)になりますが、新作『箱庭ロジック』も発表になりましたのでよろしくお願いします!

おまけ会話
まつり「それで、由梨の誕生日はいつなの?」
由梨「……私の村、ずっと旧暦だったのよ。だから今だと……ええと」
まつり「旧暦!?」

Cabbit 第二弾!「キミへ贈る、ソラの花」応援中!
posted by しょこ at 23:54| Comment(0) | TrackBack(0) | SS・2次創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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