2009年03月28日

圧力

「人と話してるときにね、その人の圧力を、感じるようになったの。具体的に」
 ついにこの子は頭がおかしくなったのかと思いながら、私は彼女の持っているミルクティをひょいと奪った。
 
 彼女の話を要約すると、彼女は人の会話に対する圧力のようなものを、感じることが出来るようになったらしい。簡単に言うなればプレッシャー。期待してないよと言いながらしてしまう、期待のようなものか。そういうのをよくわからないけど、感じるらしい。
「具体的って何よ」
「具体的なの! 背中にね、親指でぐーって押されるような感覚」
「はあ?」
 ともかくそんな感じらしい。もともと頭のちょっとあれな子だったので、まあ諦めたほうがいいかもしれない。ミルクティが取り返された。
「ほら、ほらほら今、馬鹿じゃないのみたいな圧力かけてるっ」
「おう、今更気づいたのか。出会った時からかけてるけど」
「なんだってーっ」
 もう友達やめようか。そんなことを思いながらもいつものように適当にあしらうような関係が続いていた。
 
 しばらくして、突然彼女からの連絡が途絶えた。会社でも会わないし、ケータイも繋がらない。私は少し心配になって彼女が勤めてる課に足を運んだ。彼女の話を出すと、言いづらそうな顔をしながら、こう言われた。
「背中の骨が砕けて、緊急入院してるらしい」

 圧力を感じる。その意味が私にはまだわからない。

圧力を感じすぎて急に砕けた背骨。
posted by しょこ at 22:19| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

りぴーとあふたーみー

 彼女は自分で生きることをやめてしまった。
「おはよう」
 僕が起き上がり、彼女に笑いかけると、彼女も起きだして笑った。
「おはよう」
 僕が立ち上がると彼女は後ろに着いて来る。僕は無駄だとわかっているのに彼女に問いかける。
「朝ご飯、何がいい?」
 彼女は笑った。
「朝ご飯、何がいい?」

 朝食を食べるときも彼女は僕のまねをした。全く同じように動こうとする彼女。並んで同じように料理をすることにも、慣れた。そうなってしまったのは、彼女のせいじゃない。
 僕は窓の外を見ながらぽつりと言う。
「今日は、天気がいいね」
 彼女も、窓の方を向いた。
「今日も、天気がいいね」

 彼女がこうなってしまって、最初は、早口でずっとしゃべったり、わざとまねが出来ないようにいじわるなことをしたり、手を押さえつけたりしようとした。彼女はただ子供のように叫んで、辛そうに泣いた。病院に入れることもできず、僕は仕事に行くこともできなくなった。
 精神的にエネルギーを使うのか、彼女はすぐに眠ってしまうので、その間にできる在宅の仕事に切り替えた。食事に少し、病院でもらった薬も混ぜている。
 ひよこのようにずっと、僕の後ろをついてくる彼女。
 彼女は自分の意思で生きることをやめてしまった。


幼稚園のときとかやったよね。まねごっこ。怒られたけど。
posted by しょこ at 17:29| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

誤算

「君が……あの子を手放すことはわかっていたよ」
「仕方が……なかったんだ。俺だって……」
「でも彼女は君を恨んでいる。ほら、牙を向き始めた」
「誤解だ……誤解なんだ! 決して彼女と君を秤にかけたわけじゃ……!」
「ふふ、果たしてその言葉が彼女に届くかな?」
「おまえだって、笑ってなんかいられないぞ」
「な、なんだって……? 彼女が……」
「ふん、何の役にも立たないと切り捨てたつもりだったか?」
「彼女を見くびっていたようだ……。これはもう一度、我が手中に収めなければならないようだな」
「なんだと? 彼女はもう俺のものだ! おまえなどに渡しはしない!」
「ほう。ならば精一杯守るのだな」
「な……! お前、なんてことを……!」
「一番大事なものを忘れると痛い目を見るぞ。何故お前にはまだわからないのだ」
「くっ……! 俺の……誤算だ……!」




 パチン、パチン、パチン
 男たち二人の前では、文字の入った木の札が、マス目に合わせて戦い続けていた。


変態将棋。きもいきもちわるいきもい。
posted by しょこ at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

レベルアップ

 俺たちはパーティを組んで旅をしていた。マジシャンやメディスンもいるお陰で、俺たちはかなり有名なパーティになっていた。有名なドラゴンなんかも倒した。
 けれども一向に、俺のレベルは上がらなかった。高い経験地がもらえるボス戦では必ず、バトル中盤で気絶してしまうからだ。気がつくと他のメンバーが無事に経験を積んでレベルを上げている。俺だけがレベルが低かった。
 俺はその事実を気にし始め、ボス戦には気を引き締めて望むようになった。しかし、どうしても後ろからの攻撃に気がつけない。敵の動きはしっかり見ているはずだったのに。この職業が向いてないのかもしれない。今時剣士なんて……、古典的すぎるのだろうか。
 ある日のことだった。その日もボスと遭遇し、俺たちはバトルを開始した。試合中盤、俺は仲間に声をかけるために振り向いた。
 俺の後頭部めがけて杖を振り上げるメディスンの姿があった。

 俺はそのパーティから抜けた。
 一つレベルが上がったと思う。

低レベルプレイって言うのよ。
posted by しょこ at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

インフレ

 その男は最初普通に強かった。けれどもっと強い男が現れた。男は強くなった。その間にもっと弱い男もたくさん現れた。男は一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男はいろいろな人の協力を得て強くなった。男は一番になった。けれどももっと強い男が現れた。多少の犠牲を払い、男は強くなった。男はまた一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。

けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。
けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。
けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。
けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。

「……と、いう話。わかった?」
「強くなる話なのね?」

最終的には宇宙でテニスもできるし、死んでも甦ります。
posted by しょこ at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「僕が買ったらその大きいどんぐり頂戴ね!」
「テストで100点取ったら、ゲーム買って!」
「徒競争で一番だったらおこずかい頂戴!」
「テストで5番以内に入ったらラケットを買って」
「試合に勝ったら、僕と付き合ってほしい」
「高校に合格したら、パソコンが欲しいんだ」
「今日のデートを楽しく終えることができたら」
「大学に合格したら一人暮らしがしたい」

 これ以外にも無数に続く「暁」の山を、僕は今まで一度も失敗することなく、乗り越えてきた。それが、僕の誇りだった。
「もし、君が少しでも僕に好意を持っているならば、僕と出かけて欲しい。僕は君を海の綺麗なホテルに連れていってあげる。もしそこが気に入ったなら、僕と食事をして欲しい。そこのホテルは本当に一流で、君のためだけに特別コースを作らせよう。そこで僕と話して……僕を知って……、もし、その会話を楽しいと感じたなら、僕と付き合ってほしい。そのときは夜の海と月が綺麗な最上階の部屋でゆっくりと二人だけの時間を楽しもう。もし……」
「断る」


気持ち悪い。
posted by しょこ at 17:23| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月27日

 花びらが散っていく。

 私たちは地面に落ちた桜の花びらをほうきで集めていた。誰かが先生から借りてきたリヤカーで花びらをどこかへ運んでいく。みんな本当に楽しそうだった。誰かが花びらを少し取って、空に投げる。それを、誰かが笑いながら叱った。
 歩道の周りいっぱいに花びらが落ちているから、それをかき集めるだけですごい量になった。リヤカーが何往復もして、それを運んでいく。ある程度綺麗になったとき、誰かがこう言った。
「そろそろ行こうよ」
 私たちはみんなでどこかへと向かった。ゴミ捨て場に向かうのかと思ったけれどそうじゃなくて、もっと裏にある人があまり来ない場所だった。
 そこにぽっかりと地面に穴があいていてその中に桜の花びらが敷き詰められていた。リヤカーの中にはまだいっぱいの花びらがあった。
「これ、どうするの?」
 覗きこみながら、私が尋ねる。誰かが、私の背中にそっと触れた。
「決まってるじゃない。あなたを埋めるのよ」
 私が落ちると花びらが舞い上がった。その上から花びらがまた入ってくる。土がかけられる。花びらが汚れていく。

 笑い声が聞こえてくる。私はあの人たちの名前を知らない。


自分を殺した人の名前を知らない。
posted by しょこ at 13:55| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ラジオ体操

 このアパートに引っ越してきて、1カ月が経った。私の仕事は夜が多いので、必然的に寝るのが朝の6時くらいになる。すると、7時くらいに音が聞こえてくる。
 ラジオ体操だ。がやがやという子供の笑い声と、ラジオから流れる軽快な声。このうるささだときっと近くの空き地か公園かどこかだ。本当に迷惑。私は今日も目を覚ましてしまって、もぞもぞと布団に潜り込む。引っ越してくる前は、こんな場所だなんて知らなかった。早く引っ越した方がいいかもしれない。

 

 それからしばらく経って気づいたのだが、この近くに空き地も公園もないし、聞くと、ラジオ体操なんてどこもやってないそうだ。
 それでも7時になると、ラジオ体操が聞こえてくる。
 起きだして窓を開ける勇気がまだない。

 変なホラー。
posted by しょこ at 13:54| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

砂漠

 砂漠を作ろう、と誰かが言いだして、幼い私たちは砂漠を作ることにした。まずはみんなで公園の砂場に向かった。砂場の砂を踏みながら、どうしたら地面がこんな風になるのか考えた。
「普通の土は湿ってるよ。水が多いんじゃない?」
 土の水分がなくなると砂になると思っていた私たちは、さっそく空き地の土を掘り返してみることにした。
 その前に、雑草がたくさん生えていたので、それを抜かなければならなかった。本当は空き地全体を砂漠にしたかったが、疲れたので一角だけにした。私たちは土をコンクリートの上に乗せて少しずつ乾燥させて、ゆっくりと砂漠を作ることにした。
 次の日、雨が降って、そのあとは砂漠を作っていたことを忘れてしまった。
 
 思えばどうして砂漠を作ろうと思ったんだろうか。気候の問題も砂のこともわからなかったからだろうか。
 砂漠が悪いものだというのは、多分わかっていたと思う。
 私たちは世界を滅亡させたかったのかもしれない。

性悪説か
posted by しょこ at 13:52| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

田園

 遠く、遠くまで、続いていく田園の真ん中で一人の男が死んでいた。

 いつ、男が死んだのか、定かではない。あぜ道の方で死んでいたなら発見も早まっただろうが、男は真ん中にいた。稲が伸びてくると彼の体は完全に隠れてしまい、見えなくなる。腐敗が進んで虫が湧いてくると、その辺一帯の稲が全部ダメになってしまって、そのときになってやっと男は発見されたのだった。
 警察が駆け付けて、東北の小さな村は途端にマスコミでいっぱいになった。しかし、いつまで経っても身元が判明しなかった。男は、裸のまま死んでいたからだ。慰留品も何も、見つからなかった。その村の全員に当たったが、親族や知り合いにも行方不明は一人も出ていない。そのうち事件は忘れ去られた。
 結局「あれ」がそもそも人だったのか、どこからどうやって田んぼの真ん中に行ったのかすら、定かではない。

定かではない文章。
posted by しょこ at 13:51| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ストーカー彼女

 俺の彼女は可愛い。これは自慢ではなく、事実だ。入学当初から可愛い可愛いと人気だったが、大人しくて部活にも入っていなかった彼女は、性格が未調査のままで終わってしまい、結局可愛くて性格のいい子の前に埋もれてしまった。
 その女の子が、先週、何故か俺のクラスの近くに立っていて、俺に話しかけてきた。
「あの、私、先輩のことが好きで、あの、だから、そのジュースのゴミ、いただけませんか!?」
 変な告白を聞いた。
 
 *
 もういいか。続きは妄想でどうぞ。
 
posted by しょこ at 13:49| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

潔癖

 性行為というものが、年を取ると負担にしかならなくなると言うことに、年を取ってから気づいた。気がつくと私は夫と交わることがほとんどなくなっていた。夫は不満に思っていたようで何度か体を求めてきたけれど、若い頃の感度を失くしてしまった私に飽きるのは時間の問題だった。
 
 そんなある日のことだった。部屋の中に何重にも包まれたティッシュのゴミが落ちていた。拾ってみるとそこには、白く粘々としたものが包まれていた。その日、私は夫と喧嘩をした。知らないと言う夫に対し、私は酷い罵声を浴びせてしまった。その日、私はリビングのソファーで眠った。
 次の日もその次の日も、家の至るところでティッシュが見つかった。窓際だったこともあるし、玄関にあったこともある。私はその日からノイローゼのように疲れ果ててしまって、食事は用意するものの、夫とは一言も言葉を交わさなかった。何のつもりだかもわからず、私は仕返しに現金を彼の枕元に置いてやった。やりたければ外でしてくればいい。何も、私に期待することないのに。
 
 それは、何日も過ぎたある日のことだった。物音がして廊下へ出てみると、知らない男が立っていた。手には白いティッシュのゴミを持っていた。
 
『次のニュースです。現在都内を中心に連続強姦魔が出没しており、警察では警戒を強めています。なお、被害女性の家には必ず、ここ最近ティッシュを丸めたようなゴミが家の中に捨ててあったという情報があり、犯人が何らかのルートで部屋の中に忍び込み、捨てていたと見て捜査を進めています。犯人が複数いる可能性も出ており、戸締りに気をつけ、もしそのようなゴミが発見された場合はすぐに以下の番号に連絡をお願いします』


なるべく綺麗にまとめたかったけど、気持ち悪いね。
posted by しょこ at 13:48| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月26日

続かない記憶

「例えばね、私の記憶が長くは続かなくて、明日には全部消えてしまうとしたら、貴方はどうする?」心配そうな目で、彼女は俺に尋ねる。「殴っても泣かせても紐で縛っても、貴方がしたいこといっぱいいっぱいやっても、私の悲しみは長く続かないとしたら、どうする?」
 俺は笑って言った。
「君が覚えてない分、俺がずっとずっと覚えていられるように、精一杯優しくするよ。そして、忘れても何度でも聞かせてあげる」
 彼女は満面の笑みを浮かべて、俺にぎゅっと抱きついてきた。
 
 俺はそんなことが起こりえないと知りながら、
 
 *
 、 で終わる文章。続かないよ。私は続けないよ。
posted by しょこ at 13:16| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

モーリー

 同じ職場に、背の高い男性が居た。いつもはダサい小さな丸渕の眼鏡をかけているが、眼鏡をはずしたときに微笑む姿は本当にかっこよかった。周りは「えー」と不満の声を上げるけれど、私は本当に彼の虜になっていった。
 私は思い切って、彼に告白をしてみることにした。彼は少しだけ困ったような顔をして背筋を丸めて見せてから、申し訳なさそうに「彼女がいるんだ」と答えた。
 私は泣きながら、同僚にその話をした。みんな顔を見合わせて、不思議そうな顔をした。「あの人が彼女と歩いてる姿なんて見たことないよ」と口々にそう言った。私もそう思う。彼ははっきりと断ることができなくて、私にそんな嘘をついたのだ。
 しかし、話が少し広まると、どうやら嘘ではないという線も見えてきた。もう少し年上の先輩から、背の高い女性と歩いているのを数年前に見たと言う話を聞いた。最近は見ていないから、別れて、まだ未練があるということだろうか。もう少し遡ると真相が見えてきた。彼女は事故で亡くなったらしい。
 私がそのことを彼に問い詰めると、彼は困った顔をして、「いいよ。家に来て」と言ってくれた。私は期待して真新しい下着に着替えて、彼の家へと向かった。彼の家は私の家から電車で2本くらい行った場所にあって、男性の部屋にしてはとても綺麗にしてあった。彼の部屋にはぬいぐるみがたくさんあって、確かに女の匂いがした。
「この子が俺の彼女なんだ」
 そう言って、彼は私にそれを紹介した。
「彼女は……確かに事故で死んでしまったけれど、魂はこの子の中にある。今は動いたりしないけれど、俺が一人のときは、しゃべるし騒ぐし、大変なんだ。突然家事をするって騒ぎ出したり、お外に行きたいよって言い出したり。俺の悩みとかもしっかり聞いてくれるんだ。俺、この子のことが好きだから、君とは付き合えない。ごめんなさい」
 両手で包み込めるくらいの、モグラにも似たハリネズミのぬいぐるみを、大事そうに抱きしめながら、彼は言った。
 
 私は持っていた鞄で彼を殴りつけて、それからもう2度と関わらないことに決めた。


はりねずみのモーリー。
posted by しょこ at 13:14| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

兆し

 どうして私は、彼女の存在に気づいてあげることが出来なかったのでしょうか。

 私は普通のOLをしていました。務めているところは一応大手で、何千人という社員がそこで働いていました。女性も多く、働きやすい職場でした。
 彼女は私にとって、よく気がつく後輩でした。まっすぐで笑顔が可愛くて、口ごたえもしないとても素直な子です。同じ課なので、よく彼女と昼食を共にしました。もちろん、二人きりではなく、いろいろな人と一緒に。彼女は他の社員ともとても上手に関係を築いていました。
 彼女は本当に、よく気がつくのです。仕事もさくさくとこなしますし、たとえば食事のときにゴミが出たりすると、全員の分を率先してまとめて捨てにいくような子でした。どうせ、自分も捨てるしと言って気兼ねなく笑うので、つい私たちはその笑顔に頼ってしまいます。課の中でも、デスクの脇に一人一つずつごみ箱があって、定時になるとそれをしっかり一部屋分回収して、おそうじのおばさんに渡すのも彼女でした。フリーのコーヒーがなくなっていると作ってくれるのも彼女だし、小さな雑用を全て賄っているような女性でした。その全てを、いやいやではなく当然のようにやっている姿は誰の目から見てもすてきでした。

 ある日、私は万年筆をなくしてしまいました。花柄の美しいもので、とても大切にしていたものです。私は彼女にも話を聞きました。彼女は息を飲みました。
「ええ、わかります。花柄の……。すみません、昨日拾って、家に置いて来てしまいました。……盗もうとしたんじゃないですよっ? 今日はちょっとかばんを変えてみたので……。そうだ! 先輩、今日私の家に来ませんか? ペンも返したいし、明日は休みだし、いろいろお話しましょうよ」
 私は彼女の言葉に笑顔で頷きました。

 気がつくと私は小さな部屋の中にいました。私の部屋ではないけれど、しっかり部屋として完成した、住みやすい部屋でした。首には首輪がついていて、そこから鎖も繋がっていました。その部屋には扉がなく、あっても、私の届く位置ではなく、壁一面がガラス張りになっていました。向こう側には別な部屋がありました。そこに、彼女がいました。
「先輩は私のコーヒーを飲んで、眠ってしまったんです。覚えてますか?」
 彼女の誘いに返事をして、彼女の家を訪れて。マンションの最上階にあるとても広い部屋で、私は本当にびっくりしました。
「じゃあ、先輩。これは覚えてますか?」
 彼女はそう言って、白いティッシュのようなものを見せました。見覚えはありませんでした。
「先輩と私が初めて会った日に、先輩が捨てたごみですよ」
 死にたいという言葉は、こういうときに使うのだと思いました。
「他にもね、いっぱいありますよ! 見てください、この部屋にあるもの全部! 先輩が捨てたゴミ、私、いっぱい拾って帰ってたんです。あ、腐敗はしないようにちゃんとしましたから、大丈夫ですよ。私、先輩が本当に欲しかったんです! 先輩が欲しくて欲しくて、こんな部屋まで作っちゃいました。防音室を改造したんです。叫んでも無駄ですよ」
 欲しい。彼女はそう言いました。彼女にとって私は人形で、私はおもちゃに過ぎないのです。
「先輩は今日からここで暮らすんですよ。無理はしちゃだめです。あ、あたしは先輩が死んじゃっても先輩の体とーっても大事にしますけど、死ぬの、苦しいと思いますよ。私は先輩が大好きなので、先輩を幸せにします!」

 私が半年間捨て続けたごみが、神々しく壁に張られて飾られてありました。
 それらに見守られながら生きていく。

 私はそのとき、何もかも忘れて狂いたくて仕方がなかったのです。


これはホラーです。
posted by しょこ at 13:12| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

何百人の男

「ああ、なんということだ」
 男は呟いた。
 その一言で全てが壊れたかのように、男たちは次々に嘆き始める。
「なんだってこんなことに」「この国はもう終わりだ」「ああ」「どうして」「どうして女性たちだけが」「ああ、愛しの」「子どもまでが」「こんなむごたらしい」「神はどこにいるんだ!」「女性だけがかかるなんて」「ああ」「これからどうしたら」「なんのために」「もう」「苦しい」「どうして」「ご慈悲を」「墓がこんなにも」「ああ」「なんという」「もういやだ」「苦しい」「それでも」「もういっそのことみんなで死ねば」「ああ」「そんなことはだめだ」「悲しい」「つらい」「死のう」「ああ」「ダメだ、死んでどうなる」「そうだ」「ああ」「生きなければ」「ああ」「そうだ」「復興だ」「歴史を」「苦しい」「立ち上がれ」「ああ」「そうだ」「生きよう」「生きなければ」「ああ」「悲しい」「どうして」「泣いている暇はない」「ああ」「生きよう」「生き延びよう」「この国を繋げなければ」「ああ」「そうだ」「墓を守る人がいなければ」「そうだ」「ああ」「歴史を」「歴史を紡がなければ」「俺が本を書こう」「ああ」「いい考え」「生きよう」「ああ」「生きよう」「生きよう」「生き延びよう」「国を」「この国を」「歴史を」「ああ」「そうだ」「生きよう」「復興だ」「生きよう」


 何百人もの男たちが嘆き苦しみ、それから復興へのきざしを取り戻す全過程を、年端もいかぬ15,6の一人の少女が見ていた。彼女の腕には縄がかけられていた。
「ねえ、私はどうなるの!? この国で何があったのかなんとなくわかったけれど、私は隣の国の人間よ! 突然さらってきて、どうするつもりなの!? 私はちゃんと国へ帰れるの!? ねえ!!」
 彼女の叫びに、男たちは黙りこんだ。何も言わずに彼女の言葉に耳を傾け、それから。

 それぞれがそれぞれのタイミングで、にやりと汚い笑みを浮かべた。



お好みで台詞をもっと増やしてもかまわない。
二人以上出てくる話ってSSだと難しいよねとか考えてじゃあ何百人とか書こうと思った。
posted by しょこ at 12:48| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

あなたのなみだ

 彼女の隣で多くの時間を過ごすのにも慣れた。いつでも新品のようにぴしっとした彼女の制服も、くせのない髪も、完璧すぎる全ての言動にも、もう慣れた。それを知って離れていく人が多い中で、私は彼女の前に残った。
「雨、ね……」
 二人でいつものように帰り道を歩いていく。どんよりとした曇り空の下で、空のことになんか興味を持たずに会話を進めていた。彼女が呟いたのと同時に、私も額に冷たさを感じた。
「ほんとだ。少し急ぐ?」
「いいえ。いいわ。いざとなったら車で帰ればいいのだし」
 車。女子高生だと言うのに、彼女は平然とそう言いのける。勿論、彼女が運転するんじゃない。電話一本で、彼女の元に黒塗りのセダンが訪れるだけで。
 お嬢様というとどうしてもみんな敬遠してしまう。もしくは社交的なお嬢様ならお金があることを自慢するかもしれない。彼女はそのどちらにも取れる、普通だった。普通であろうとするゆえに、放たれる雰囲気のようなものが彼女と周りに一線を引いた。慣れてしまうと彼女は車も普通に使うし。お金があるなりの普通の行動をする。それが妬ましいと感じたことは特にない。
「ねえ、それが誰かの涙だったら、って考えたことない?」
「? 雨よ?」
「そうじゃなくて、……なんていうのかしら。例えば涙が蒸発して、空に上って、それが落ちてきた奴なの」
「? それだって雲と中の水滴と混ざるから……」
「もうっ。例えばだってばぁ」
 地面には少しずつ濡れたあとが広がっていく。彼女は少しむつけて見せた。私は素直に彼女の言うことに従うことにする。
「貴女の想像の中の少女は涙を零し、それが空に昇っていく。そうして、貴女の額へと落ちてくる……素敵じゃない?」
 彼女がそう言うなら、そうなのかもしれない。私には夢を語る能力がないから。
「貴女の想像の中の少女は、どうして泣いている? 悲しいことがあったの?」
「……わからないわ。泣いたことってあまりないから」
 想像が出来ない。わからない。泣くことが仕事なのかもしれない。私はそんな風にかんくぐってしまう。
「じゃあ、貴女が泣いたときは、涙を小瓶に入れて私に頂戴ね? 空に昇っていったら、捕まえられないもの」
 私は泣くのだろうか。泣くことなんか、きっとないだろう。何があっても、私の心は乾いている。
「貴女が死んだら泣くわ。きっと」
 ぽつりとそう呟いたら、目の前にいたお嬢様は驚いた顔で振り返って、顔をゆがめて、頬を真っ赤にして、それから「ありがとう」と呟いた。
 
 恋でも愛でも友情でもなんでもない何かに縛られていた私たちは、それでもきっと幸せだったのだと思う。
 これは、ただそれだけの話。



なんだこいつら。
posted by しょこ at 12:46| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

おしまいの前に

 俺たち5人は、闇サイトと呼ばれる場所で出会った。政府の機関が根掘り葉掘り必死で探している、有害サイト。俺たちが出会ったのはその中でも、『自殺者を集う』ための奴だった。俺たちは5人で同じ日に死ぬことにした。
 HNでケンゾウと名乗った奴が車をレンタルしてくれることになった。ケンゾウは「免許は一応あるがほとんど運転してないので、運転は誰か他の人にして欲しい」と言った。俺が車を運転することにした。免許は以前持っていた。今はもう、売り払ってしまったけれど。
 5人、集まってみると、俺を含め4人は同じくらいの年代だった。年齢を聞くとみんな20代で、二人は女性だった。ただし、車を借りたケンゾウだけは60をゆうに超えたジジイだった。車に乗り込み、山の方へと向かう。車の中で、それぞれ身の上話をした。
 ケンゾウ以外の4人、俺たちはみんな金がなかった。会社をクビになった奴、借金がある奴、カード破産した奴、理由はさまざまだった。家もなく、ネカフェで彷徨い、あのサイトに辿りついていた。生きることに疲れていたが、生まれ変わったら幸せになることを望んでいた。
 ケンゾウが身の上話を始めた。
「私はお前たち若者とは違う……。金は、有り余るほどあるんだ。けれど、私の息子や娘、孫たちはみんな、私が死ぬことを望んでいる。財産が一斉に手元に流れ込むからな。私はあんな金の亡者たちに金を渡したくない。生きていても、生きている心地がしないんだ……。食事にも、毒が入っているのではないかと思ってね。私は土地や宝物を除いて、全ての財産を極秘で作った通帳に移動させた。これで、余計な金はあいつらには回らない。
 そこで、提案があるんだ。5人で、生き延びないか? 私はあの家から逃げ出して、君たちには金を渡そう。そうすれば、幸せに暮らせるのではないか? やり直せるのではないか? 私は幸せな家庭が欲しいんだ」
 私たちは悩んだ。声には出さなかったが、それぞれ。
 沈黙が続いた。それを破ったのは、一人の女性だった。
「とても良い案ですね」彼女はそう言って、握手をするように右手を差し出した。「キャッシュカードと、印鑑を。それから暗証番号を教えてください」
 俺たちは彼女のその意見に賛成した。
 
 一台の車の中に一人の老人が横たわっていた。車の中には練炭があり、老人は遺書を持っていた。老人は自分でレンタカーを借り、この場所で自殺を図ったらしい。
 しかしおかしなことに、ハンドルについているはずの老人の指紋がなかった。
posted by しょこ at 12:43| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

永久に続く春

 貴方は暖かくて、全てを錯覚しそう。どうか、此処が永遠に春だと言って。
 
 私はずっと、春の中に居た。彼の傍にいると何時だってぽかぽかと暖かくて、彼は何時だって私を愛してくれた。私が夏へ、秋へ、冬へ、と季節を変えてしまいそうになると、泣きながら私を殴ってくれた。それはそう、雪山で、私が死なないように守ってくれるような、愛の鞭。彼は私をぎゅっと抱きしめて、ずっと春の中へと置いてくれた。
 いつしか部屋の中が花でいっぱいになったの。キッチンがなくなってしまって、私は料理ができなくてとても困ったのだけど、彼が助けてくれた。常に暖かい風が部屋の中に吹いてて、私は彼が居ない時間を、その風の中で過ごすの。綺麗なお花を愛でながら、彼にいっぱいいっぱい感謝するのよ。
 
 ねえ? 彼は本当にいい人でしょう?
 此処は本当に寒くて、凍えてしまいそう。
 彼はどこにいるの? 帰りたい。
 私がちゃんと話したら、彼を返してくれるのではないの?
 
 長い時間閉じ込められたままの少女の心は病み、
 彼の歪んだ愛を本当の愛だと錯覚した。
 少女の愛した彼は未成年の少女を監禁した罪に囚われ
 そのもっともっと長い時間を、少女は小さな病室で過ごした。
 
 ねえ、彼はどこなの? ここは本当に寒い。雪がこんなにいっぱいで……、一人ぼっちで……。死んでしまいそうだわ。怖くて堪らない。どうして貴方たちはこんなところにいられるの?
 ねえ、私が居た場所の話を聞かせてあげる。私の愛した人は魔法使いでね、彼のいる場所は永遠に、春なのよ! ぽかぽかと暖かくて、いつだって、お花がとっても綺麗なの!
 
 *
 
 またの名をリリーホワイト。
 また狂った話書いてる。空のあれと似てる。
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2008年12月07日

ピアニィ・ピンク


 彼女と付き合い始めてから、四ヶ月が経った。少し男勝りで乱暴で、それでも優しい彼女は、デートのときに必ずピンクの服を着てくる。


 彼女に不満があるわけではない。容姿も悪くないし、性格も可愛い。だけど何度考えても何度見ても、ピンクは似合わないのだ。だけど俺はそれを言い出せずにいる。彼女はきっとデートの度にピンクのふわふわした可愛い服を探してくるのだろう。それを否定すると言うのはなんというか気が引ける。彼女がショックを受けたりしたらどうしよう、そればかりを気にしてしまうのだ。


 それでもやっぱり彼女はいつも着ている服の方が似合うし、無理してピンクの服を着るよりは普通にしていてほしい。そう思うのはきっと悪いことじゃないはずだ。俺は意を決して、彼女に話してみることにした。


「悪いけど、君にピンクの服は似合わないと思うんだ」

「知ってる。わざとだもん」

「ちょっと」
posted by しょこ at 02:19| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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