2007年03月16日

カタカナ05:エンドレスリピート

 繰り返しを続けている間は、きっと永遠。

「こんにちは」
「こんにちは」
「元気?」
「ありがとう」
「今日は天気がいいね」
「好きよ」
「一緒にお散歩に行こう?」
「さようなら」
「お外、あったかいよ」
「こんにちは」

 彼女は少し、少女と話すと、にっこりと笑って手を振った。
「あの子がお友達?」
「そうよ」
「会話がかみ合ってないように見えるんだけど…」
「永遠を望んだ子なの」彼女はにこりと笑った。「あの子は「こんにちは」と「ありがとう」と「好きよ」と「さようなら」を繰り返すことしか出来ないの」

 あたしは少しあの子のことを見ていた。看護婦さんが近づいていって「こんにちは」と声をかけた。「ありがとう」と返した。
「繰り返している間は永遠だから、あの子は永遠を手に入れたんだわ」
 彼女はそう言って施設を後にした。あたしは帰る前に彼女の方を振り返る。彼女と目が合った。
「好きよ」
 そう言われた。

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哲学的01:瞳の中の空

 目をつぶると空があるのは今に始まったことじゃなかった。

 私は空をここしばらくずっと見ていない。辺りは薄暗く、誰も居ない。夜になると悪夢を見る。だから私は目をつぶる。
 目をつぶるとそこには綺麗な空が広がっている。私は緑色の綺麗な芝生を駆け回っている。柔らかな風が吹いて、私は幸せに没頭する。
 そうして、何時間か経った後、がたりと大きな音がして目を開ける。
 悪夢が始まる。

「お姉ちゃんは大丈夫なの?」
 昨日、一年ぶりに姉が発見された。姉は一年前に失踪して、行方がわからなくなっていたのだ。姉は拉致監禁されていて、二つ隣の県のアパートで発見された。犯人は三十代の男だった。
 一年ぶりに会った姉はずっと目をつぶっていた。私が声をかけるとうれしそうに返事をして私の名前を呼んだ。
「お姉ちゃん、目が開けられないの?」
 私は尋ねる。私の姿を見て欲しかった。
「ううん、でも、目をつぶっていないと空が見えないから」


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季節01:滑らかな風

「風が滑らかなわけないじゃない!」
 彼女は突然立ち上がってそう叫んだ。ため息をついて座る。
 彼女は物書きだ。真の芸術家というのに当てはまるのが彼女だと思う。言葉の一つ一つにすごく敏感で、美しいとか美しくないとか、いつでも苦悩に苦悩を重ねながら作品を書いている。
 彼女はコンクールの締め切り前になるとあたしを呼ぶ。そして何もしなくていいから傍に居て、と言う。最初は言っている意味がわからなかったが段々理解できるようになった。
 誰かが傍にいて止めなければ、締め切り前に彼女は狂ってしまう。奇怪な声を上げたり、変なことを口走ったり、平気でする。それでも傍にあたしがいると、少なからず「あ、見られてる」と思って作品に向き直るようだ。それからたまに話しかけてくる。そう、こんな風に。
「ねえ、風が滑らかなわけないわよね?」
「さあ? そういうふうにも使うんじゃない?」
「だって、ナメラカよ、ナメラカっ! 実に美しくないわ! ああ、なんでこんな言葉書こうとしたのかしら……」
 彼女はぶつぶつと呟いて、それからしぶしぶとコンピュータに戻る。
「渚、コーヒー頂戴っ! 私の芸術感性を取り戻すのっ!」
「はいはい」
 あたしはこういう締め切り前の彼女が嫌いではない。

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2007年03月14日

ロマンチック01:星降る夜

 何が見たいかと聞かれたから、流れ星と答えた。彼は黙って笑っていた。何ヶ月も前の話。

 星降る夜

「どこに行くの」

 それは十月のある日。学校が終わった後、彼氏に拉致された。車に乗せられて何時間も暗闇の中を走り続けている。目的地を言わないので私は後部座席に座った。さりげない嫌がらせのつもりだった。

 そもそも私は彼のことがあまり好きではなかった。それでももうかれこれ十ヶ月以上付き合っている。

 私は恋愛に興味がない。好きだとか嫌いだとかそういうことにもあまり興味がないのだ。なぜ付き合っているのかと聞かれたら、それは私を好きになる人の気が知れなかったから。「十日で男を振る方法」なんてしなくても、彼は十日で私から離れていくと思っていた。それがまさかこんなことになるなんて。

「どこに行くの」

 私はもう一度彼に尋ねる。彼は少し笑うだけで教えてはくれなかった。私の苛々が限界に達する。

「お腹すいた。降りる」

「ちょ、待ってよ。もうちょっとだから」

「もういや。なんなの? 私だって暇じゃないんだから。明日までにやらなきゃいけない課題だってあるし、返さなきゃいけないDVDだってあるのよ。それを何? 人の都合を無視して勝手ばっかり!」

 勿論、課題を溜めていたのは私の所為だし、DVDだってもっと早く返しに行けばよかったんだけど、それは言わない。

「うーん」彼は少し唸ってから「わかった」と言って車を止めた。何もなく、周りは木ばっかりの人気のない山道だった。

「多分、ここからでも見えるはず」

「何? 熊か何か?」

「それも見えるかもしれないけど」

「私、熊よりも鹿が見たいわ」

「うーん、わかった。今度な」

 彼はそう言うと車から降りて、後部座席のドアを開けた。私へと差し出された手を私は無視する。一人で反対側のドアを開け、道路へと降りた。彼は不服そうにドアを閉めて、車に鍵をかける。

「わ……」

 空を見上げるとそこには満天の星空が広がっていた。私が振り向くと彼は少し笑う。

「これを私に見せに来たの?」

「いや、まだ」

「じゃあ熊?」

「今度動物園行くから、熊から離れて」

 私は黙って空を見上げる。私は星に詳しくないから、星を点で結んで星座を当てるような遊びはできない。

「あ」

 何か、小さな光が暗い夜空を切り裂くように落ちていく。しばらく眺めていると、その数はだんだんと増えてきた。

「流星群?」

「そう」彼は得意気に答える。「前に「何が見たい」って聞いたら「流れ星」って答えたから」

「そうだったかしら」

 思い出した。確か何ヶ月も前に映画に行ったときのことだ。私は人が大勢居るところで、しかも隣に知らない人が座っている中、芸術鑑賞だなんて耐えられなくて、ずっと苛々していたのだ。それで映画のタイトルではなく「流れ星が見たい」などと言った。実際は変な時間に、今流行の座席が百しかなくて、スクリーンが何個もある映画館に行ったから、私たち二人以外誰も居なかったのだけど。

 彼は気がつくと私の隣にやってきて、夜空を見上げていた。そのままの体勢で、私に「ご感想は?」と尋ねる。

「寒い」

 彼は笑って、私を後ろから抱きしめた。このまま頭をごんと後ろに倒したら、致命傷を与えられる気がするけどやらないでおく。

「こういうことされても、私、貴方に靡かないよ」

「うん。別にいい」

 無理矢理恋人ごっこをしろとか、そういうことを言わないところは少しだけ好きだ。少しだけだけど。ついでに言うとあんまり暖かくなかった。

「実を言うとね、私、流れ星見たのって初めてなの」私はぽつりと呟く。「だって夜空に星が流れていくのよ。おかしいと思わない? ヘリコプターが墜落する方がよほど現実的だわ」

「ヘリコプター墜落なんて滅多に見ないけど」

「そうだけど、そうじゃなくて。私、小さいころに動く星を見たのよ。親に言ったらヘリコプターだって言われた。そのときからなんていうか、これが墜落したら流れ星になるのかなって」

「なんてことを」

「うーん、だからそんなわけで」私は恥ずかしくて少し俯いた。「ありがとう」

 私はついでだから目をつぶって、手を組み、何かお願いしてみる。

「何を願ってるの?」

「誰かが私の課題を手伝ってくれて、ついでにDVDも返してきてくれますようにって」

 彼は少しだけ私を強く抱きしめて、耳元でこう囁く。

「それは一緒にいてもいいってこと?」

「あ、やっぱやだ。だめ」

 星の雨が降る。恋人と一緒に居る。

 それでもこれをロマンチックだと思えるようになるには、途方もない年月がかかりそうな気がしていた。

 まぁでも、それも悪くないかなんて考えている私が居る。

「お腹すいた」

「何食べたい?」

「第九を聞きながらイタリアンでシャンパン」

「難しいことを……」

 私は笑って彼の腕からすっと逃げ出す。そして何歩か前に出て、振り向き、お辞儀をする。

「フロイデ シャーネル ゲッテルフンケン……」

 ドイツ語がわかるわけではなかったけれど、第九くらい覚えている。

 星降る夜に響く小さなシンフォニー。私の求める芸術にふさわしく、美しい。

 私の歌声が夜空に溶けていく。そればっかりは本当に、「ロマンチック」だと、思った。


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管理人→富(とみ)
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