2007年03月14日

砂時計

お題袋から3枚引いてみる。
「砂時計」
「ゴミ」
「休み」

作成日時 2006年9月29日
開始時間 19:50
終了時間 20:43
3分オーバー

文字数1105
行数63
枚数3枚と3行

  †
「砂時計」

 ガッシャーン
 あまりにも嫌な音がして、あたしは一瞬振り返るのを躊躇した。だって振り返れば「それ」が割れているのを見なきゃいけないから。あたしはため息をついて、振り返らずに玄関へと向かった。スリッパを履いて、靴箱の中にある軍手を取る。それから玄関に置きっぱなしになっていた新聞の、明らかに読まない地域のページを抜き取った。あとはキッチンに向かいスーパーの袋を一枚持って、それからもう一度ため息をつく。ショックが一番にやってこない自分が寂しい。
 リビングに向かうと、テーブルの上に置いてあったはずのガラスの砂時計がなくなっていた。床を見るとそこにはきらきらと光を反射させながらガラスの破片が飛び散っていた。それからピンクの砂と青い砂が不思議な模様を描いている。その様子を見て、あたしはやっと泣きたくなった。この子は朽ち果てるときも綺麗だ。
 この砂時計は彼氏と出かけたときに買ったものだ。小さな雑貨屋さんで売っていて、透明で綺麗な四角いガラスの中に砂時計が二つ入っている。ピンクが三分で、青が五分。引っ繰り返して遊んでいるところを彼氏に見つかって、買ってもらった。砂の中にきらきらしたラメも入っていて、本当にうっとりするほど綺麗なのだ。
軍手をはめて、そっとガラスと砂を一箇所に集める。スーパーの袋を広げたら、なんだか急に寂しくなった。
「ねえ、終わりってこと?」
 あたしは壊れた砂時計に向かってつぶやく。もし、この子がしゃべったらあたしはきっと受け入れるのに。涙が頬をつたって、ガラスの上に落ちた。
 いつからおかしくなった? いつからうまくいかなくなった? 彼のよそよそしい態度に、あたしはいつ気がついた? 気がつかなきゃ幸せだった?
 運命だと思っていた出会いも、当然だと思っていた未来も、きっと朽ち果ててしまった。砂時計が壊れたから? 違う。砂時計が終わりを教えてくれた。いつまでも付き合い続けるかわいそうなあたしを見て、きっと耐えられなくなったんだ。
 あたしは新聞紙を開いて、その上にガラスと砂を乗せられるだけ、乗せた。こぼれないように包んでビニール袋の中に入れる。残った砂やラメ、それからガラスの破片がまだ床の上で輝いていた。あたしは掃除機を持って来て、それを残らず吸い取る。そうして思い出はただのゴミになった。あたしの目の前から消えてしまった。
涙は出なかった。未来を見よう。きっと大丈夫。
 次の休みはいつだろう。次の日曜日か、はたまた土曜日か。どっちだっていい。とにかく、彼に会おう。そうして、ちゃんと終わらせよう。
 あたしは砂時計の入った袋を一度だけ両手でやさしく抱きしめて、「ありがとう」と言って笑った。

    †

お題見て瞬間的におもいついたのをがたがたと。

これの続きがこれの2話目だったら死んでもやだなぁと
思いながら書きました。繋がりそう。
http://yabane.kago-ai-chan.net/story/three.html

posted by しょこ at 12:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 三題囃 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ルージュの魔法

お題。
「口紅」
「海」
「花火」

見た瞬間「書けるかこんなの」と思った。

書き始め 21:45
書き終わり 23:05
30分オーバー

文字数1662
行数100
枚数5枚と0行

    †

「ルージュの魔法」

 私は口紅をつけない自分を愛せないのに、彼は口紅をつけた私を愛してくれません。
 手は握ってくれても、ぎゅっと抱きしめてはくれません。口付けはくれません。気づかれないように距離を置きます。私が気づかないとでも思っているのでしょうか。
 私は自分の唇の色が好きではありません。上唇と下唇の色が違って、あまりにも滑稽でぶさいくなのです。私はそれがずっとコンプレックスで、口元を手で覆うことが癖になってしまいました。
 大学に入ってから、私は口紅をつけるようになりました。口紅は素敵です。私のコンプレックスを隠してくれるのです。初めてつけたとき、私は本当に感動しました。私の今までの悩みが全て吹き飛んでしまったのですから。
 ファンデーションもアイメイクもチークも全てチープコスメな私ですが、ルージュとコンシーラは高級なものを使っています。私は自分のことを好きになれたし、恋人だってできました。本当に幸せです。
それなのにどうしてでしょう。私の一番愛する人が私の愛する私を愛してくれないのです。私はそれをずっと気にかけていました。
そう。だからなのです。私の大好きなもの、「花火」「夜」「海」の三つに関係する有名な花火大会に彼と一緒に行くと言うのに、私が助手席で泣きそうな顔になっているのは。
「どうしたの?」
「なんでもない」
 彼の問いかけに私は口元を隠しながら答えました。彼が嫌がるから口紅をつけなかったのに、それを今はとても後悔しています。今日のために実家から持って来た紺の浴衣も赤い帯も、この唇のせいで全ておかしく感じました。こんなことならジーパンにTシャツのほうがブスに似合う服っぽくてよかったかもしれません。なんだかとっても申し訳ない気分になってきました。
 私は窓の外を眺めました。日が傾き始めていて、雲が紫に染まっていました。私は紫式部の歌を思い出しながらその景色を眺めていました。
「酔ったの?」
「へ?」私は驚いて振り返ります。「お酒飲んでないよ?」
「聞いてねえよ」
 私は頬が熱くなるのを感じました。遂に会話すらかみ合わなくなってきました。重症です。最悪です。「酔ってません」と下を向きながら答えました。
「疲れた? どっかで休む?」
 彼の言葉に私は頷きました。耐えられませんでした。サイドミラーに写る自分を見たくなくて、私はまた目を伏せました。
「行きたくないの?」
「違う」私は首を横に振りました。「海も花火も、すごく好き。すごく、楽しみ、だった」
「だった?」
「うん」私は唇をかみ締めました。「ねえ、口紅、つけていい?」
 私が尋ねると彼は目を丸くしました。
「どうして?」
「だって、気持ち悪い」
「何が?」
「私がっ!」私は耐え切れずに声を荒げてしまいました。「口紅をつけてない自分が気持ち悪い。こんな汚い色、見て欲しくないっ」
 ずっと嫌だった。ずっと嫌いだった。やっと、自分を好きだって言えそうだったのに、こんなのってない。
 私の髪を、彼がそっと撫でました。私は唇をかみ締めたまま、彼を見ようとしませんでした。
「俺は、今のお前が好きだよ。そのままでいいよ」優しい声が車の中に響きました。延々と続く重低音と小さな揺れが私の心を落ち着けていきます。「俺の前では自然でいてよ。気持ち悪くなんかない」
 私は恥ずかしさのあまり下を向きました。全身が熱くなるのを感じました。汗まみれになった手を、浴衣を掴むことでごまかしました。彼は再び私の髪を撫でました。
「まじめに運転してください」
 私は彼に今の自分を見て欲しくなくて、そう言いました。彼は苦笑いをして運転に戻ります。
 私は口元を手で覆ったまま「ありがとう」と言いました。そんな簡単に了承することも、自分を好きになることもできません。私はサイドミラーに自分の姿を写してみます。気持ち悪い唇は、今日も変わりません。
それでも。
 今日だけはこのままでもいてあげてもいいかな、と思えるほどの力はありました。私は彼の横顔を少しだけ見つめていました。
「何?」
「なんでもない」
 大好きだよ、とは言いませんでした。
posted by しょこ at 12:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 三題囃 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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