2009年03月29日

給料

 給料、と言えば、今の時代、金が当たり前だ。現金ではなく銀行振込で、税金は引かれ年金も引き落とされる。けれどここの仕事はいつも、現金以外のモノが渡されるらしい。
 例えば食事。例えば物。例えば……生き物ってこともあるようだ。いつも日雇いのバイトとして一斉に募集をかける。前回行ったときは女性限定で、化粧品の試用会だった。アンケートに答えて、多分売れ残ったネックレスを配って、説明を聞いて、興味を持ったものを答えて。結局いくつかの化粧品をもらった。普通に働いた方がよかった。
 しかし、この企画に味を占めた企業がいたことは事実で、報酬に物を渡すアルバイトが増えた。米だったり、自社製品だったり、提携してるところの物だったり。働く方も必要なものだと捉えているのであれば、普通に人が集まった。
 しばらくすると会社づとめの人々にも、現金ではなく日用品や食糧を給料として渡すようになっていった。物を買う手間が省けると、物が与えられることを喜んだ。物物交換も盛んに行われた。

 そうなってからやっと、税金の収集が困難になり、これが国民全員の企みだと知った政府は、急いで物品を給料として渡すことを禁じたのだった。
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2009年03月28日

圧力

「人と話してるときにね、その人の圧力を、感じるようになったの。具体的に」
 ついにこの子は頭がおかしくなったのかと思いながら、私は彼女の持っているミルクティをひょいと奪った。
 
 彼女の話を要約すると、彼女は人の会話に対する圧力のようなものを、感じることが出来るようになったらしい。簡単に言うなればプレッシャー。期待してないよと言いながらしてしまう、期待のようなものか。そういうのをよくわからないけど、感じるらしい。
「具体的って何よ」
「具体的なの! 背中にね、親指でぐーって押されるような感覚」
「はあ?」
 ともかくそんな感じらしい。もともと頭のちょっとあれな子だったので、まあ諦めたほうがいいかもしれない。ミルクティが取り返された。
「ほら、ほらほら今、馬鹿じゃないのみたいな圧力かけてるっ」
「おう、今更気づいたのか。出会った時からかけてるけど」
「なんだってーっ」
 もう友達やめようか。そんなことを思いながらもいつものように適当にあしらうような関係が続いていた。
 
 しばらくして、突然彼女からの連絡が途絶えた。会社でも会わないし、ケータイも繋がらない。私は少し心配になって彼女が勤めてる課に足を運んだ。彼女の話を出すと、言いづらそうな顔をしながら、こう言われた。
「背中の骨が砕けて、緊急入院してるらしい」

 圧力を感じる。その意味が私にはまだわからない。

圧力を感じすぎて急に砕けた背骨。
posted by しょこ at 22:19| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

レンタルビデオ

 返ってこない、ビデオがあった。
 
 レンタルビデオ店でアルバイトを始めてから、半年が経った。レンタルビデオ店といっても、全国チェーンの有名なところではなく、私が働いているのは深夜独身男性によく好かれるような、ええと、もう説明はいいかしら、そういうお店だった。自給が高く、何よりレジでは顔が見えないようになっているので、安心して勤めに出れる。
 私たちの仕事は普通のレンタルビデオショップと同じで、お客様が持ってきた商品をレジでチェックして、会計を行い、一週間で返却をお願いしますと言う。それだけだった。返ってきたビデオはすぐに並べず、閉店後に一斉に戻すので、お客様と接する機会はほとんどなかった。
 いや、一応、ある。昼間にだけにある仕事。それは、ビデオを延滞しているお客様に電話をすること。私は夜よりも昼間に入るほうが多かったから、その仕事を結構受け持った。昼間はあまり人が来ないので、お客様がいない時間を見計らって電話をした。
 私はリストの一番上を見る。また、この人だ。先週も先々週も、私が電話をした。借りパクしようとする人は電話にも出ないか、もしくは電話口で切れる人が多いのだけれど、この人だけは違った。「申し訳ありません、申し訳ありません」と何度も謝るので、私も「もう少し待ってあげよう」という気になってしまう。店長もそう考えたようだった。一応、と思って電話をしてみる。
「もしもし、○○様でしょうか?」
「はい……、そうです……」
 消え入りそうな声で男が返事をする。また、この声だ、と思った。
「○○○○ビデオの佐藤と申しますが、只今お時間大丈夫でしょうか?」
「申し訳、ありません……」
「あ、いえいえ、そういうわけではないんですけれど」
 早速謝られてしまったので、私は焦ってしまう。もう、この人のペースに乗せられている。この声も全て演技だとしたらと思うと、ぞっとする。
「当店で借りているビデオがありますよね? 延滞金のほうが少し高くついていると思うんですけれど、大丈夫ですか?」
「申し訳ありません。只今立て込んでおりまして……。必ずお返ししますので、もう少し待っていただけませんか……?」
「そうですか。わかりました。お忙しい中お電話差し上げて申し訳ありませんでした」
「いえ、本当に申し訳ありません……」
 最後まで沈んだ声で電話を切った。私ははあと溜息をついた。
 
 それから一週間ほど経った頃だった。お客様には似つかわしくない、中年の女性が店内に入ってきた。女性は真っ直ぐにレジまで向かい、レジにいた私にこう言った。
「少し込み入った話がありますの……。よろしいでしょうか?」
 私はすぐに訳ありだと思い、女性をお店の控え室のほうへ招きいれた。
 店長やバイト君たちがみんなタバコを吸うので、控え室は本当にタバコ臭い。女性が少しむせたので、私は「すみません」と頭を下げた。
「これ……」
 女性はうちのビデオ店の袋を鞄から出して、テーブルの上に置いた。私が中身を見ると、ビデオが一本入っていた。
「うちの息子が借りていたもので……お返しにきました」
 私は状況を察した。うちのお客さんが一人亡くなったのだ。「確認してきてもよろしいでしょうか?」と尋ねると女性はこくりと頷いた。ビデオをレジに通すと延滞料金と一緒にお客様情報が現れた。間違いない。私が何度も電話した、「申し訳ありません」の人だった。
 私は控え室に戻り、女性に頭を下げた。
「返却に来てくださり、ありがとうございました。それと……ご冥福をお祈りします」
 私がそう言うと、女性は少し目元を潤めた。そうか、あの人亡くなってしまったのかと思うと、私も目頭が熱くなった。
「先週お電話差し上げたときに、異変に気づけたら……」
「え……?」
 女性は怪訝そうな顔をして私を見た。私は何か可笑しなことを言ってしまったかもしれないと思い、必死でフォローする。
「い、いえ、先週、延滞のお電話を差し上げたときに……。何度も謝っていらっしゃって。今、立て込んでいると言っていたので、どうしたのかなあとは思っていたのですが……」
 女性は顔をしかめて、それからとても言いづらそうに、こう言った。
「息子は……ケータイを持ったまま、川に飛び込んだんです。一ヶ月前に」
 私は女性が何を言っているのか、一瞬理解できなかった。
 
 私は何度も壊れたケータイに電話をかけていたのだろうか。
 「申し訳ありません」という声が耳から離れない。


レンタルマギカじゃないよ。ホラーなんだろうか。
posted by しょこ at 20:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

りぴーとあふたーみー

 彼女は自分で生きることをやめてしまった。
「おはよう」
 僕が起き上がり、彼女に笑いかけると、彼女も起きだして笑った。
「おはよう」
 僕が立ち上がると彼女は後ろに着いて来る。僕は無駄だとわかっているのに彼女に問いかける。
「朝ご飯、何がいい?」
 彼女は笑った。
「朝ご飯、何がいい?」

 朝食を食べるときも彼女は僕のまねをした。全く同じように動こうとする彼女。並んで同じように料理をすることにも、慣れた。そうなってしまったのは、彼女のせいじゃない。
 僕は窓の外を見ながらぽつりと言う。
「今日は、天気がいいね」
 彼女も、窓の方を向いた。
「今日も、天気がいいね」

 彼女がこうなってしまって、最初は、早口でずっとしゃべったり、わざとまねが出来ないようにいじわるなことをしたり、手を押さえつけたりしようとした。彼女はただ子供のように叫んで、辛そうに泣いた。病院に入れることもできず、僕は仕事に行くこともできなくなった。
 精神的にエネルギーを使うのか、彼女はすぐに眠ってしまうので、その間にできる在宅の仕事に切り替えた。食事に少し、病院でもらった薬も混ぜている。
 ひよこのようにずっと、僕の後ろをついてくる彼女。
 彼女は自分の意思で生きることをやめてしまった。


幼稚園のときとかやったよね。まねごっこ。怒られたけど。
posted by しょこ at 17:29| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

誤算

「君が……あの子を手放すことはわかっていたよ」
「仕方が……なかったんだ。俺だって……」
「でも彼女は君を恨んでいる。ほら、牙を向き始めた」
「誤解だ……誤解なんだ! 決して彼女と君を秤にかけたわけじゃ……!」
「ふふ、果たしてその言葉が彼女に届くかな?」
「おまえだって、笑ってなんかいられないぞ」
「な、なんだって……? 彼女が……」
「ふん、何の役にも立たないと切り捨てたつもりだったか?」
「彼女を見くびっていたようだ……。これはもう一度、我が手中に収めなければならないようだな」
「なんだと? 彼女はもう俺のものだ! おまえなどに渡しはしない!」
「ほう。ならば精一杯守るのだな」
「な……! お前、なんてことを……!」
「一番大事なものを忘れると痛い目を見るぞ。何故お前にはまだわからないのだ」
「くっ……! 俺の……誤算だ……!」




 パチン、パチン、パチン
 男たち二人の前では、文字の入った木の札が、マス目に合わせて戦い続けていた。


変態将棋。きもいきもちわるいきもい。
posted by しょこ at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

レベルアップ

 俺たちはパーティを組んで旅をしていた。マジシャンやメディスンもいるお陰で、俺たちはかなり有名なパーティになっていた。有名なドラゴンなんかも倒した。
 けれども一向に、俺のレベルは上がらなかった。高い経験地がもらえるボス戦では必ず、バトル中盤で気絶してしまうからだ。気がつくと他のメンバーが無事に経験を積んでレベルを上げている。俺だけがレベルが低かった。
 俺はその事実を気にし始め、ボス戦には気を引き締めて望むようになった。しかし、どうしても後ろからの攻撃に気がつけない。敵の動きはしっかり見ているはずだったのに。この職業が向いてないのかもしれない。今時剣士なんて……、古典的すぎるのだろうか。
 ある日のことだった。その日もボスと遭遇し、俺たちはバトルを開始した。試合中盤、俺は仲間に声をかけるために振り向いた。
 俺の後頭部めがけて杖を振り上げるメディスンの姿があった。

 俺はそのパーティから抜けた。
 一つレベルが上がったと思う。

低レベルプレイって言うのよ。
posted by しょこ at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

インフレ

 その男は最初普通に強かった。けれどもっと強い男が現れた。男は強くなった。その間にもっと弱い男もたくさん現れた。男は一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男はいろいろな人の協力を得て強くなった。男は一番になった。けれどももっと強い男が現れた。多少の犠牲を払い、男は強くなった。男はまた一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。

けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。
けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。
けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。
けれどももっと強い男が現れた。男は強くなった。男はまた一番になった。

「……と、いう話。わかった?」
「強くなる話なのね?」

最終的には宇宙でテニスもできるし、死んでも甦ります。
posted by しょこ at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「僕が買ったらその大きいどんぐり頂戴ね!」
「テストで100点取ったら、ゲーム買って!」
「徒競争で一番だったらおこずかい頂戴!」
「テストで5番以内に入ったらラケットを買って」
「試合に勝ったら、僕と付き合ってほしい」
「高校に合格したら、パソコンが欲しいんだ」
「今日のデートを楽しく終えることができたら」
「大学に合格したら一人暮らしがしたい」

 これ以外にも無数に続く「暁」の山を、僕は今まで一度も失敗することなく、乗り越えてきた。それが、僕の誇りだった。
「もし、君が少しでも僕に好意を持っているならば、僕と出かけて欲しい。僕は君を海の綺麗なホテルに連れていってあげる。もしそこが気に入ったなら、僕と食事をして欲しい。そこのホテルは本当に一流で、君のためだけに特別コースを作らせよう。そこで僕と話して……僕を知って……、もし、その会話を楽しいと感じたなら、僕と付き合ってほしい。そのときは夜の海と月が綺麗な最上階の部屋でゆっくりと二人だけの時間を楽しもう。もし……」
「断る」


気持ち悪い。
posted by しょこ at 17:23| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月27日

 花びらが散っていく。

 私たちは地面に落ちた桜の花びらをほうきで集めていた。誰かが先生から借りてきたリヤカーで花びらをどこかへ運んでいく。みんな本当に楽しそうだった。誰かが花びらを少し取って、空に投げる。それを、誰かが笑いながら叱った。
 歩道の周りいっぱいに花びらが落ちているから、それをかき集めるだけですごい量になった。リヤカーが何往復もして、それを運んでいく。ある程度綺麗になったとき、誰かがこう言った。
「そろそろ行こうよ」
 私たちはみんなでどこかへと向かった。ゴミ捨て場に向かうのかと思ったけれどそうじゃなくて、もっと裏にある人があまり来ない場所だった。
 そこにぽっかりと地面に穴があいていてその中に桜の花びらが敷き詰められていた。リヤカーの中にはまだいっぱいの花びらがあった。
「これ、どうするの?」
 覗きこみながら、私が尋ねる。誰かが、私の背中にそっと触れた。
「決まってるじゃない。あなたを埋めるのよ」
 私が落ちると花びらが舞い上がった。その上から花びらがまた入ってくる。土がかけられる。花びらが汚れていく。

 笑い声が聞こえてくる。私はあの人たちの名前を知らない。


自分を殺した人の名前を知らない。
posted by しょこ at 13:55| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ラジオ体操

 このアパートに引っ越してきて、1カ月が経った。私の仕事は夜が多いので、必然的に寝るのが朝の6時くらいになる。すると、7時くらいに音が聞こえてくる。
 ラジオ体操だ。がやがやという子供の笑い声と、ラジオから流れる軽快な声。このうるささだときっと近くの空き地か公園かどこかだ。本当に迷惑。私は今日も目を覚ましてしまって、もぞもぞと布団に潜り込む。引っ越してくる前は、こんな場所だなんて知らなかった。早く引っ越した方がいいかもしれない。

 

 それからしばらく経って気づいたのだが、この近くに空き地も公園もないし、聞くと、ラジオ体操なんてどこもやってないそうだ。
 それでも7時になると、ラジオ体操が聞こえてくる。
 起きだして窓を開ける勇気がまだない。

 変なホラー。
posted by しょこ at 13:54| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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