2009年03月27日

砂漠

 砂漠を作ろう、と誰かが言いだして、幼い私たちは砂漠を作ることにした。まずはみんなで公園の砂場に向かった。砂場の砂を踏みながら、どうしたら地面がこんな風になるのか考えた。
「普通の土は湿ってるよ。水が多いんじゃない?」
 土の水分がなくなると砂になると思っていた私たちは、さっそく空き地の土を掘り返してみることにした。
 その前に、雑草がたくさん生えていたので、それを抜かなければならなかった。本当は空き地全体を砂漠にしたかったが、疲れたので一角だけにした。私たちは土をコンクリートの上に乗せて少しずつ乾燥させて、ゆっくりと砂漠を作ることにした。
 次の日、雨が降って、そのあとは砂漠を作っていたことを忘れてしまった。
 
 思えばどうして砂漠を作ろうと思ったんだろうか。気候の問題も砂のこともわからなかったからだろうか。
 砂漠が悪いものだというのは、多分わかっていたと思う。
 私たちは世界を滅亡させたかったのかもしれない。

性悪説か
posted by しょこ at 13:52| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

田園

 遠く、遠くまで、続いていく田園の真ん中で一人の男が死んでいた。

 いつ、男が死んだのか、定かではない。あぜ道の方で死んでいたなら発見も早まっただろうが、男は真ん中にいた。稲が伸びてくると彼の体は完全に隠れてしまい、見えなくなる。腐敗が進んで虫が湧いてくると、その辺一帯の稲が全部ダメになってしまって、そのときになってやっと男は発見されたのだった。
 警察が駆け付けて、東北の小さな村は途端にマスコミでいっぱいになった。しかし、いつまで経っても身元が判明しなかった。男は、裸のまま死んでいたからだ。慰留品も何も、見つからなかった。その村の全員に当たったが、親族や知り合いにも行方不明は一人も出ていない。そのうち事件は忘れ去られた。
 結局「あれ」がそもそも人だったのか、どこからどうやって田んぼの真ん中に行ったのかすら、定かではない。

定かではない文章。
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ストーカー彼女

 俺の彼女は可愛い。これは自慢ではなく、事実だ。入学当初から可愛い可愛いと人気だったが、大人しくて部活にも入っていなかった彼女は、性格が未調査のままで終わってしまい、結局可愛くて性格のいい子の前に埋もれてしまった。
 その女の子が、先週、何故か俺のクラスの近くに立っていて、俺に話しかけてきた。
「あの、私、先輩のことが好きで、あの、だから、そのジュースのゴミ、いただけませんか!?」
 変な告白を聞いた。
 
 *
 もういいか。続きは妄想でどうぞ。
 
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潔癖

 性行為というものが、年を取ると負担にしかならなくなると言うことに、年を取ってから気づいた。気がつくと私は夫と交わることがほとんどなくなっていた。夫は不満に思っていたようで何度か体を求めてきたけれど、若い頃の感度を失くしてしまった私に飽きるのは時間の問題だった。
 
 そんなある日のことだった。部屋の中に何重にも包まれたティッシュのゴミが落ちていた。拾ってみるとそこには、白く粘々としたものが包まれていた。その日、私は夫と喧嘩をした。知らないと言う夫に対し、私は酷い罵声を浴びせてしまった。その日、私はリビングのソファーで眠った。
 次の日もその次の日も、家の至るところでティッシュが見つかった。窓際だったこともあるし、玄関にあったこともある。私はその日からノイローゼのように疲れ果ててしまって、食事は用意するものの、夫とは一言も言葉を交わさなかった。何のつもりだかもわからず、私は仕返しに現金を彼の枕元に置いてやった。やりたければ外でしてくればいい。何も、私に期待することないのに。
 
 それは、何日も過ぎたある日のことだった。物音がして廊下へ出てみると、知らない男が立っていた。手には白いティッシュのゴミを持っていた。
 
『次のニュースです。現在都内を中心に連続強姦魔が出没しており、警察では警戒を強めています。なお、被害女性の家には必ず、ここ最近ティッシュを丸めたようなゴミが家の中に捨ててあったという情報があり、犯人が何らかのルートで部屋の中に忍び込み、捨てていたと見て捜査を進めています。犯人が複数いる可能性も出ており、戸締りに気をつけ、もしそのようなゴミが発見された場合はすぐに以下の番号に連絡をお願いします』


なるべく綺麗にまとめたかったけど、気持ち悪いね。
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2009年03月26日

続かない記憶

「例えばね、私の記憶が長くは続かなくて、明日には全部消えてしまうとしたら、貴方はどうする?」心配そうな目で、彼女は俺に尋ねる。「殴っても泣かせても紐で縛っても、貴方がしたいこといっぱいいっぱいやっても、私の悲しみは長く続かないとしたら、どうする?」
 俺は笑って言った。
「君が覚えてない分、俺がずっとずっと覚えていられるように、精一杯優しくするよ。そして、忘れても何度でも聞かせてあげる」
 彼女は満面の笑みを浮かべて、俺にぎゅっと抱きついてきた。
 
 俺はそんなことが起こりえないと知りながら、
 
 *
 、 で終わる文章。続かないよ。私は続けないよ。
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モーリー

 同じ職場に、背の高い男性が居た。いつもはダサい小さな丸渕の眼鏡をかけているが、眼鏡をはずしたときに微笑む姿は本当にかっこよかった。周りは「えー」と不満の声を上げるけれど、私は本当に彼の虜になっていった。
 私は思い切って、彼に告白をしてみることにした。彼は少しだけ困ったような顔をして背筋を丸めて見せてから、申し訳なさそうに「彼女がいるんだ」と答えた。
 私は泣きながら、同僚にその話をした。みんな顔を見合わせて、不思議そうな顔をした。「あの人が彼女と歩いてる姿なんて見たことないよ」と口々にそう言った。私もそう思う。彼ははっきりと断ることができなくて、私にそんな嘘をついたのだ。
 しかし、話が少し広まると、どうやら嘘ではないという線も見えてきた。もう少し年上の先輩から、背の高い女性と歩いているのを数年前に見たと言う話を聞いた。最近は見ていないから、別れて、まだ未練があるということだろうか。もう少し遡ると真相が見えてきた。彼女は事故で亡くなったらしい。
 私がそのことを彼に問い詰めると、彼は困った顔をして、「いいよ。家に来て」と言ってくれた。私は期待して真新しい下着に着替えて、彼の家へと向かった。彼の家は私の家から電車で2本くらい行った場所にあって、男性の部屋にしてはとても綺麗にしてあった。彼の部屋にはぬいぐるみがたくさんあって、確かに女の匂いがした。
「この子が俺の彼女なんだ」
 そう言って、彼は私にそれを紹介した。
「彼女は……確かに事故で死んでしまったけれど、魂はこの子の中にある。今は動いたりしないけれど、俺が一人のときは、しゃべるし騒ぐし、大変なんだ。突然家事をするって騒ぎ出したり、お外に行きたいよって言い出したり。俺の悩みとかもしっかり聞いてくれるんだ。俺、この子のことが好きだから、君とは付き合えない。ごめんなさい」
 両手で包み込めるくらいの、モグラにも似たハリネズミのぬいぐるみを、大事そうに抱きしめながら、彼は言った。
 
 私は持っていた鞄で彼を殴りつけて、それからもう2度と関わらないことに決めた。


はりねずみのモーリー。
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同じ物

 私は施設で生まれました。母親と言うものは……いないのだと思います。いえ、なんと説明したらいいのでしょうか。私の卵子を体内で育て、この世に送り出したという点での母は居るでしょうし、卵子を提供した母も、精子を提供した父もいます。勿論、その二つを改造した科学者たちもたくさんいます。私たちに料理を与える人もいたし、一般的な躾を行う人もいました。その全てが、父で、母だけれど、どちらとも言えないのだと思います。
 施設にはたくさんの子どもたちがいました。私より年齢がもっと高い人もいたけれど……、ほとんどは6歳にも満たない子どもでした。私の年齢まで生き残る子は少ないのです。みんな、途中で死んでしまうから。
 私たちはみんな、同じ顔をしていました。私は途中まで、双子のように顔の同じな姉妹たちと暮らしながら、数年前の自分と数年後の自分を見ながら暮らしていたのです。名前はありませんでした。6歳になると模擬的な学校に通うために、名前が与えられましたが、それより前は……。つける意味がないのです。どうせほとんどが死んでしまうのですから。
 姉妹たちが死んでいくのを、私は何度も見てきました。何かの病気のように突然苦しみだす子もいるし、風邪で高熱がでて、そのまま死んでしまう子もいました。私たちは基本的に体が弱く、ほとんどの病原体に対して抗体がありませんでした。科学的に無理矢理作り出した抗体を科学者たちに体に植え付けられて、そのまま死んでしまう子もいました。主に、6歳に満たない妹たちです。死というものが蔓延していて、私たちはその全てに慣れていました。
 奇跡的に生き延びている……姉と、私は、実験的には成功例だとして、丁重に扱われました。人体実験をたくさんしてから、成功したものだけが私たちに与えられるし、妹たちとは全ての扱いが違います。このまま幾つまで生きるか、科学者たちは実験したいのでしょう。しかし、そううまくはいきませんでした。
 姉は……、与えられた名前はバネッサと言います。バネッサは体を病み始め、もう長くはなさそうなのです。私はバネッサに会いたくて、真夜中に彼女の部屋へと忍び込みました。
 姉は、私にうつろな目をそっと向けました。もう、驚くことすら出来ないようでした。
「こんなところ……来ては駄目よ……」
 消え入りそうな声で、彼女は言いました。私は彼女の手を取り、首を横に振りました。彼女は小さな声で呟きます。私は必死に彼女の声を聞き取ろうとします。
「死にそうな姉妹を見るのは……、苦しくはない?」
「……少し。もう、慣れてしまったから」
「そう……、私はずっと、苦しかったわ……」
 彼女の瞳から、涙が零れました。言語以上のことを誰かが教えたわけではないのに、私たちは感情を知っていました。
「いつだって、自分を見ているようだった……。数年前の自分を、数年後の自分を、見ているようだったわ。同じ顔だから……苦しみが全部移ってきそうだった……」
「バネッサ……」
 私の瞳からも、涙が零れてきました。こんな場所でこんな風に生まれなければ、知らなくて良かった悲しみを、私たちはたくさん知っていました。
 私たちは成功例なので、望めばそれなりにいろいろなものが手に入りました。音楽が聞きたいと言えばCDを、本が読みたいと言えば本を、木彫りの彫刻がしたいといえば、ナイフを。
「一緒に逝きましょう、バネッサ。私はこのまま貴女が病んでいくのを、一人で見たくないわ」
 私が取り出したナイフを見て、彼女は困惑したように視線を上下させて、それから私を真っ直ぐに見て。
 微笑んだのでした。
 
 血まみれになったベッドの上に二人の少女が横たわっていた。二人は年齢は違うものの、とてもよく似ていて、どちらも首筋にぱっくりと開いた傷跡があった。二人は寄り添うように抱き合って、その死に顔はとても穏やかだった。
 二人の死をたくさんの人たちが悲しんだ。それでもそれは、彼女たちの存在価値に対してだけで、彼女たちの性格や優しさを失くした人を嘆く人は、誰も居なかったと言う。
posted by しょこ at 13:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

兆し

 どうして私は、彼女の存在に気づいてあげることが出来なかったのでしょうか。

 私は普通のOLをしていました。務めているところは一応大手で、何千人という社員がそこで働いていました。女性も多く、働きやすい職場でした。
 彼女は私にとって、よく気がつく後輩でした。まっすぐで笑顔が可愛くて、口ごたえもしないとても素直な子です。同じ課なので、よく彼女と昼食を共にしました。もちろん、二人きりではなく、いろいろな人と一緒に。彼女は他の社員ともとても上手に関係を築いていました。
 彼女は本当に、よく気がつくのです。仕事もさくさくとこなしますし、たとえば食事のときにゴミが出たりすると、全員の分を率先してまとめて捨てにいくような子でした。どうせ、自分も捨てるしと言って気兼ねなく笑うので、つい私たちはその笑顔に頼ってしまいます。課の中でも、デスクの脇に一人一つずつごみ箱があって、定時になるとそれをしっかり一部屋分回収して、おそうじのおばさんに渡すのも彼女でした。フリーのコーヒーがなくなっていると作ってくれるのも彼女だし、小さな雑用を全て賄っているような女性でした。その全てを、いやいやではなく当然のようにやっている姿は誰の目から見てもすてきでした。

 ある日、私は万年筆をなくしてしまいました。花柄の美しいもので、とても大切にしていたものです。私は彼女にも話を聞きました。彼女は息を飲みました。
「ええ、わかります。花柄の……。すみません、昨日拾って、家に置いて来てしまいました。……盗もうとしたんじゃないですよっ? 今日はちょっとかばんを変えてみたので……。そうだ! 先輩、今日私の家に来ませんか? ペンも返したいし、明日は休みだし、いろいろお話しましょうよ」
 私は彼女の言葉に笑顔で頷きました。

 気がつくと私は小さな部屋の中にいました。私の部屋ではないけれど、しっかり部屋として完成した、住みやすい部屋でした。首には首輪がついていて、そこから鎖も繋がっていました。その部屋には扉がなく、あっても、私の届く位置ではなく、壁一面がガラス張りになっていました。向こう側には別な部屋がありました。そこに、彼女がいました。
「先輩は私のコーヒーを飲んで、眠ってしまったんです。覚えてますか?」
 彼女の誘いに返事をして、彼女の家を訪れて。マンションの最上階にあるとても広い部屋で、私は本当にびっくりしました。
「じゃあ、先輩。これは覚えてますか?」
 彼女はそう言って、白いティッシュのようなものを見せました。見覚えはありませんでした。
「先輩と私が初めて会った日に、先輩が捨てたごみですよ」
 死にたいという言葉は、こういうときに使うのだと思いました。
「他にもね、いっぱいありますよ! 見てください、この部屋にあるもの全部! 先輩が捨てたゴミ、私、いっぱい拾って帰ってたんです。あ、腐敗はしないようにちゃんとしましたから、大丈夫ですよ。私、先輩が本当に欲しかったんです! 先輩が欲しくて欲しくて、こんな部屋まで作っちゃいました。防音室を改造したんです。叫んでも無駄ですよ」
 欲しい。彼女はそう言いました。彼女にとって私は人形で、私はおもちゃに過ぎないのです。
「先輩は今日からここで暮らすんですよ。無理はしちゃだめです。あ、あたしは先輩が死んじゃっても先輩の体とーっても大事にしますけど、死ぬの、苦しいと思いますよ。私は先輩が大好きなので、先輩を幸せにします!」

 私が半年間捨て続けたごみが、神々しく壁に張られて飾られてありました。
 それらに見守られながら生きていく。

 私はそのとき、何もかも忘れて狂いたくて仕方がなかったのです。


これはホラーです。
posted by しょこ at 13:12| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

何百人の男

「ああ、なんということだ」
 男は呟いた。
 その一言で全てが壊れたかのように、男たちは次々に嘆き始める。
「なんだってこんなことに」「この国はもう終わりだ」「ああ」「どうして」「どうして女性たちだけが」「ああ、愛しの」「子どもまでが」「こんなむごたらしい」「神はどこにいるんだ!」「女性だけがかかるなんて」「ああ」「これからどうしたら」「なんのために」「もう」「苦しい」「どうして」「ご慈悲を」「墓がこんなにも」「ああ」「なんという」「もういやだ」「苦しい」「それでも」「もういっそのことみんなで死ねば」「ああ」「そんなことはだめだ」「悲しい」「つらい」「死のう」「ああ」「ダメだ、死んでどうなる」「そうだ」「ああ」「生きなければ」「ああ」「そうだ」「復興だ」「歴史を」「苦しい」「立ち上がれ」「ああ」「そうだ」「生きよう」「生きなければ」「ああ」「悲しい」「どうして」「泣いている暇はない」「ああ」「生きよう」「生き延びよう」「この国を繋げなければ」「ああ」「そうだ」「墓を守る人がいなければ」「そうだ」「ああ」「歴史を」「歴史を紡がなければ」「俺が本を書こう」「ああ」「いい考え」「生きよう」「ああ」「生きよう」「生きよう」「生き延びよう」「国を」「この国を」「歴史を」「ああ」「そうだ」「生きよう」「復興だ」「生きよう」


 何百人もの男たちが嘆き苦しみ、それから復興へのきざしを取り戻す全過程を、年端もいかぬ15,6の一人の少女が見ていた。彼女の腕には縄がかけられていた。
「ねえ、私はどうなるの!? この国で何があったのかなんとなくわかったけれど、私は隣の国の人間よ! 突然さらってきて、どうするつもりなの!? 私はちゃんと国へ帰れるの!? ねえ!!」
 彼女の叫びに、男たちは黙りこんだ。何も言わずに彼女の言葉に耳を傾け、それから。

 それぞれがそれぞれのタイミングで、にやりと汚い笑みを浮かべた。



お好みで台詞をもっと増やしてもかまわない。
二人以上出てくる話ってSSだと難しいよねとか考えてじゃあ何百人とか書こうと思った。
posted by しょこ at 12:48| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

あなたのなみだ

 彼女の隣で多くの時間を過ごすのにも慣れた。いつでも新品のようにぴしっとした彼女の制服も、くせのない髪も、完璧すぎる全ての言動にも、もう慣れた。それを知って離れていく人が多い中で、私は彼女の前に残った。
「雨、ね……」
 二人でいつものように帰り道を歩いていく。どんよりとした曇り空の下で、空のことになんか興味を持たずに会話を進めていた。彼女が呟いたのと同時に、私も額に冷たさを感じた。
「ほんとだ。少し急ぐ?」
「いいえ。いいわ。いざとなったら車で帰ればいいのだし」
 車。女子高生だと言うのに、彼女は平然とそう言いのける。勿論、彼女が運転するんじゃない。電話一本で、彼女の元に黒塗りのセダンが訪れるだけで。
 お嬢様というとどうしてもみんな敬遠してしまう。もしくは社交的なお嬢様ならお金があることを自慢するかもしれない。彼女はそのどちらにも取れる、普通だった。普通であろうとするゆえに、放たれる雰囲気のようなものが彼女と周りに一線を引いた。慣れてしまうと彼女は車も普通に使うし。お金があるなりの普通の行動をする。それが妬ましいと感じたことは特にない。
「ねえ、それが誰かの涙だったら、って考えたことない?」
「? 雨よ?」
「そうじゃなくて、……なんていうのかしら。例えば涙が蒸発して、空に上って、それが落ちてきた奴なの」
「? それだって雲と中の水滴と混ざるから……」
「もうっ。例えばだってばぁ」
 地面には少しずつ濡れたあとが広がっていく。彼女は少しむつけて見せた。私は素直に彼女の言うことに従うことにする。
「貴女の想像の中の少女は涙を零し、それが空に昇っていく。そうして、貴女の額へと落ちてくる……素敵じゃない?」
 彼女がそう言うなら、そうなのかもしれない。私には夢を語る能力がないから。
「貴女の想像の中の少女は、どうして泣いている? 悲しいことがあったの?」
「……わからないわ。泣いたことってあまりないから」
 想像が出来ない。わからない。泣くことが仕事なのかもしれない。私はそんな風にかんくぐってしまう。
「じゃあ、貴女が泣いたときは、涙を小瓶に入れて私に頂戴ね? 空に昇っていったら、捕まえられないもの」
 私は泣くのだろうか。泣くことなんか、きっとないだろう。何があっても、私の心は乾いている。
「貴女が死んだら泣くわ。きっと」
 ぽつりとそう呟いたら、目の前にいたお嬢様は驚いた顔で振り返って、顔をゆがめて、頬を真っ赤にして、それから「ありがとう」と呟いた。
 
 恋でも愛でも友情でもなんでもない何かに縛られていた私たちは、それでもきっと幸せだったのだと思う。
 これは、ただそれだけの話。



なんだこいつら。
posted by しょこ at 12:46| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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