2009年03月26日

おしまいの前に

 俺たち5人は、闇サイトと呼ばれる場所で出会った。政府の機関が根掘り葉掘り必死で探している、有害サイト。俺たちが出会ったのはその中でも、『自殺者を集う』ための奴だった。俺たちは5人で同じ日に死ぬことにした。
 HNでケンゾウと名乗った奴が車をレンタルしてくれることになった。ケンゾウは「免許は一応あるがほとんど運転してないので、運転は誰か他の人にして欲しい」と言った。俺が車を運転することにした。免許は以前持っていた。今はもう、売り払ってしまったけれど。
 5人、集まってみると、俺を含め4人は同じくらいの年代だった。年齢を聞くとみんな20代で、二人は女性だった。ただし、車を借りたケンゾウだけは60をゆうに超えたジジイだった。車に乗り込み、山の方へと向かう。車の中で、それぞれ身の上話をした。
 ケンゾウ以外の4人、俺たちはみんな金がなかった。会社をクビになった奴、借金がある奴、カード破産した奴、理由はさまざまだった。家もなく、ネカフェで彷徨い、あのサイトに辿りついていた。生きることに疲れていたが、生まれ変わったら幸せになることを望んでいた。
 ケンゾウが身の上話を始めた。
「私はお前たち若者とは違う……。金は、有り余るほどあるんだ。けれど、私の息子や娘、孫たちはみんな、私が死ぬことを望んでいる。財産が一斉に手元に流れ込むからな。私はあんな金の亡者たちに金を渡したくない。生きていても、生きている心地がしないんだ……。食事にも、毒が入っているのではないかと思ってね。私は土地や宝物を除いて、全ての財産を極秘で作った通帳に移動させた。これで、余計な金はあいつらには回らない。
 そこで、提案があるんだ。5人で、生き延びないか? 私はあの家から逃げ出して、君たちには金を渡そう。そうすれば、幸せに暮らせるのではないか? やり直せるのではないか? 私は幸せな家庭が欲しいんだ」
 私たちは悩んだ。声には出さなかったが、それぞれ。
 沈黙が続いた。それを破ったのは、一人の女性だった。
「とても良い案ですね」彼女はそう言って、握手をするように右手を差し出した。「キャッシュカードと、印鑑を。それから暗証番号を教えてください」
 俺たちは彼女のその意見に賛成した。
 
 一台の車の中に一人の老人が横たわっていた。車の中には練炭があり、老人は遺書を持っていた。老人は自分でレンタカーを借り、この場所で自殺を図ったらしい。
 しかしおかしなことに、ハンドルについているはずの老人の指紋がなかった。
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永久に続く春

 貴方は暖かくて、全てを錯覚しそう。どうか、此処が永遠に春だと言って。
 
 私はずっと、春の中に居た。彼の傍にいると何時だってぽかぽかと暖かくて、彼は何時だって私を愛してくれた。私が夏へ、秋へ、冬へ、と季節を変えてしまいそうになると、泣きながら私を殴ってくれた。それはそう、雪山で、私が死なないように守ってくれるような、愛の鞭。彼は私をぎゅっと抱きしめて、ずっと春の中へと置いてくれた。
 いつしか部屋の中が花でいっぱいになったの。キッチンがなくなってしまって、私は料理ができなくてとても困ったのだけど、彼が助けてくれた。常に暖かい風が部屋の中に吹いてて、私は彼が居ない時間を、その風の中で過ごすの。綺麗なお花を愛でながら、彼にいっぱいいっぱい感謝するのよ。
 
 ねえ? 彼は本当にいい人でしょう?
 此処は本当に寒くて、凍えてしまいそう。
 彼はどこにいるの? 帰りたい。
 私がちゃんと話したら、彼を返してくれるのではないの?
 
 長い時間閉じ込められたままの少女の心は病み、
 彼の歪んだ愛を本当の愛だと錯覚した。
 少女の愛した彼は未成年の少女を監禁した罪に囚われ
 そのもっともっと長い時間を、少女は小さな病室で過ごした。
 
 ねえ、彼はどこなの? ここは本当に寒い。雪がこんなにいっぱいで……、一人ぼっちで……。死んでしまいそうだわ。怖くて堪らない。どうして貴方たちはこんなところにいられるの?
 ねえ、私が居た場所の話を聞かせてあげる。私の愛した人は魔法使いでね、彼のいる場所は永遠に、春なのよ! ぽかぽかと暖かくて、いつだって、お花がとっても綺麗なの!
 
 *
 
 またの名をリリーホワイト。
 また狂った話書いてる。空のあれと似てる。
posted by しょこ at 12:42| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

生きてるなんてとても言えない

 理由なんてない。ほんとに。
 気がついたら左手が真っ赤だっただけで。
 
「どうするといいのかしら……」
 手首を切ったのは初めてだった。別に気持ち悪さは感じていない。自分が切りたくなったから切ったことに、どんな感情も感じられない自分が居た。自分の中に別の誰かが居て、その子が何かすることに対して、あたしは干渉しない。別に、なんでもいい。とりあえずは消毒して白い包帯を巻いてみたけれど、左手だけがなんとなく病的に見えた。
 ただ、季節くらいは考えて欲しかった。今は真夏なんだから、長袖で手首を隠すようなことなんてできない。「どうしたの」とよく知りもしない周りに聞かれるのはうざったい。なんとかして隠さないといけない。それだけが本当にめんどくさくて、あたしはとりあえずバスに乗って街まで出てきた。バスに揺られながら思った。ああ、リストバンドを買おう。それなら別に気にならない。あたしは運動だって少しはするんだし。左手だけだとあれだから、右手にもつければいい。
 あたしは良く行くショッピングモールの3階にある、雑貨屋さんに足を踏み入れた。いつも通り、何を買いに来たのか忘れて、エクステやアクセに目を奪われる。そういやこういうの欲しいな、なんて思いながら一角にリストバンド売り場を見つけた。あたしの手首が本来の目的を教える。
 売り場の近くにもう一人、少女が立っていて、その子も熱心にリストバンドを見てる。髪はストレートで長くて真っ黒で、服は少しだけパンク系に見えた。髪の短いあたしと、よく似てるかもしれない。あたしはもうちょっと男っぽくて、彼女よりも洒落っ気がなさそうだけど。
「あ」
 つい、声が漏れた。彼女が怪訝そうな顔で振り向く。理由は簡単。見えたから。彼女の手首。
 彼女はあたしのつま先から頭のてっぺんまでじっと見て、それから視線をあたしの手首に移した。
「あ」
 思うことは一緒だった。
 
 丁度その雑貨屋の隣は全国チェーン店系列のパスタ屋になっていて、彼女は黙ってあたしをそこに連れていった。連れていったっていう表現が正しいのかは知らない。視線であたしを呼んで、振り返って、頷いた。彼女は店員に二人だと告げ、指示された席に私たちは座った。店内は広くて、喫煙席と禁煙席も分かれていて、ついでにお客さんも少なかった。窓からは駅とペデストリアンデッキが一望できて、それがポストカードか何かみたいに綺麗だった。
「ドリンクバー、二つ」
 彼女は綺麗な声でそう言って、店員が繰り返す言葉にも何の反応も示さなかった。それから退屈そうにくるくると毛先で遊び始める。あたしはどうしたらいいのかわからず、背筋を伸ばしてしゃんとしていた。
「ねえ、なんで切ったの?」
 彼女は手を止めて真っ直ぐにあたしを見た。頬杖はついたままだった。
「え、知らない」
「知らないのか。そうか」
 彼女はそう言ってまたくるくると毛先をいじって、もう一度真っ直ぐにあたしを見た。
「な、何?」
「精神に異常をきたしてる人には見えないなって。夢遊病?」
「それは違う。そういうことじゃない」
 そう、と答えた。彼女は本当に、あたしに興味がなさそうだ。自分で連れてきたくせに。少しだけ、むっとした。
「切りたくなったから切っただけよ」あたしは冷たく言い放った。「それだけ」
「どうして切りたくなったの?」
「知らないわよ」
「自分なのに」
「自分のことなんて、知ってどうするの? 気持ち悪い」
 言った。つい言ってしまった。本心。自分なんて、知らない。自分探しなんて、知らない。なにそれ。何だっていい。状況に流されて、生きてく。それが一番、楽。
「幸せなのね」
 彼女は初めて笑った。綺麗な笑顔だった。笑いなれた人の顔だ、と思った。あたしは対抗して笑ってみせる。「うん」と頷く。
「あたしもね、すごい幸せ」彼女は頬杖を突きながら言った。「努力しなくても周りに誰かが居て、何かしたわけじゃないけど友情があって、あたしは生きてるだけなのにあたしのこと好きだって言う人がいるのよ」
「ふうん、すごい幸せだね」
「うん」
 あたしたちはよく似ている。今の状況に、何の不満もないこと。不満を持たないこと。幸せだとわかっていること。
「でもね、時々その全部が大嫌いになるの。うざいなあって感じるの。ああ、でも誰にも言わないよ。口にも出さないし、そんなに悩むわけじゃないの。でもね、なんか笑っちゃうの。全部が全部、馬鹿らしいなあって。そういうときなぁい?」
「ないよ」
「あるでしょ。わかるよ」
「あるかもしれないけど、あたしはそんなあたしのことは知らないし知りたくないから、あたしじゃない」
「ほら、一緒」
「一緒じゃないよ」
「一緒だよ」
「そう」
 鏡を見ているのかもしれない。あれは汚いあたし? 違う。あたしはあんなに綺麗じゃない。うそ、あたしなんていない。
 彼女を見てるとイライラする。この場所にあたしが手首を切ったカッターがあったら、あたしは彼女を刺すだろう。
 彼女が居なければ。
 手首を切るだけ?
 乱される。壊されそう。怖い。彼女がどこか愛しくて、彼女をただ殺したい。

 結局二人でコーヒーを一杯ずつ飲んで、その店を後にした。二人でリストバンド売り場へ向かう。あたしは逃げなかった。
「ね。お互いに選ぼうよ」
 あたしは頷かなかった。彼女も何も言わずに選び始める。黒いまっすぐな髪が映った。その髪に触れてずっと撫でていたかったし、引っ張って引き裂いてやりたかった。
「どうして」
 勝手に声が漏れていた。あたしじゃないあたしの声だと思った。彼女はそっと振り向いた。
「もう2度と、会わない記念だから」
「会わないの?」
 あたしじゃないあたしは。彼女に好意を寄せていたらしい。
「世界には自分に似た人が3人居て、その人に会うと死んじゃうのよ」
「似てないよ。似てない」
 長い髪も、笑顔も、容姿も。瞳も、鼻も、眉も、手も、胸も。きっと、内臓も。心臓も。鼓動の音も。
「似すぎだよ。精神が」
 精神なんて、見えないじゃない、とあたしは言えなかった。
「じゃあ、今日は? 今、会ってるじゃない」
「今日は特別」彼女は笑って、自分の手首を指差した。「ほら、今日は二人とも死んでるから」
 明日になったら、あたしたちは生き返る。それぞれの場所で、周りの人々に笑顔を振りまくだろう。彼女はあたしじゃない誰かに。あたしは彼女じゃない誰かに。 
 あたしは黙って、黒に薔薇の模様が入ったリストバンドを選んだ。彼女はそれを見て「私、ロリータじゃないんだけどな」と苦笑いする。
 彼女は黄色のサイドに黒のラインが入ったリストバンドを選んだ。「工事現場みたい」と言うと「実際工事中じゃない」と言って笑った。
 真ん中に大きく髑髏が描かれている。左手が彼女で、右手があたしだと思った。
 生きてるなんて、とても、言えない。
 
 手は振らなかった。彼女の後姿を見つめたら、なぜか涙が零れそうになった。
 手元に残された、リストバンド。あたしはそれをつけて生き返るだろう。
 そうしてきっとあたしは、これから定期的に、左手に住む彼女を殺し続けるのだ。
 
*
似てる 似てない 似てる
変な話。
posted by しょこ at 12:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月07日

ピアニィ・ピンク


 彼女と付き合い始めてから、四ヶ月が経った。少し男勝りで乱暴で、それでも優しい彼女は、デートのときに必ずピンクの服を着てくる。


 彼女に不満があるわけではない。容姿も悪くないし、性格も可愛い。だけど何度考えても何度見ても、ピンクは似合わないのだ。だけど俺はそれを言い出せずにいる。彼女はきっとデートの度にピンクのふわふわした可愛い服を探してくるのだろう。それを否定すると言うのはなんというか気が引ける。彼女がショックを受けたりしたらどうしよう、そればかりを気にしてしまうのだ。


 それでもやっぱり彼女はいつも着ている服の方が似合うし、無理してピンクの服を着るよりは普通にしていてほしい。そう思うのはきっと悪いことじゃないはずだ。俺は意を決して、彼女に話してみることにした。


「悪いけど、君にピンクの服は似合わないと思うんだ」

「知ってる。わざとだもん」

「ちょっと」
posted by しょこ at 02:19| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

宿

「貴女に一目惚れしました! 是非うちの宿に泊まっていってください!」




 旅先でそんな詐欺にあった。
posted by しょこ at 02:13| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

背中

「ていっ」

 突然彼女に背中を蹴られた。丁度靴紐を結んでいたときだったので、俺はバランスを崩して横に倒れる。

「何!?」

 俺が大声を出すと彼女も流石に驚いて、少したじろいでから「ごめんね」と謝ってきた。


「悪気はなかったんだよ?」

「ふむ」

「ほら、昔「蹴りたい背中」って題名の本があったじゃない」

「あったね」

「男ってそういうのに憧れるのかなって」

「ねえよ」
posted by しょこ at 02:12| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

one

 どんなものも存在と言うのは一つきりで、同じものなんか存在しない。同じように作ったコップだってリモコンだって、使い方や扱い方によって個性が出てくる。人間だとわかりやすいだろう。同じ人なんていない。性格も、顔も、一人一人違うのだ。

「君の名前はなんて言うの?」
「one」

 そういうことをわかっていて、きっと彼は自分に「one」という名前をつけたのだ。だから私は彼をoneと呼ぶことにした。

 私は感動して、友達にその話をした。





「実に利口な犬だと思わない?」

「騙された」
posted by しょこ at 02:10| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月31日

メリーさん。

 突然、電話がかかって来た。相手は非通知。俺は少し訝しく思いながらも電話を取る。
「もしもし」
 そう言った瞬間、視界が真っ暗になる。ひんやりとした感触が目元を覆って、目が開けられなくなる。
 後ろに誰かいる。








「もしもし、私メリーさんよ。今、貴方の後ろにいるの」

「お前は可愛く「だぁれだ」って言えないのか」


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にゃんだこれ。
posted by しょこ at 00:59| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月29日

めがねをはずす

 貴方に薦められてコンタクトを買った後に約束した。
「私、コンタクトをつけているときは貴方をずっと思うね。貴方が薦めてくれたんだもん」
 数ヶ月経った今、しばらくコンタクトをつけていない。
posted by しょこ at 15:42| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

時計の針

 給料が出たので部屋の時計を買い換えた。古い時計は置き場がなかったので捨てることにした。
 せっかく捨てるんだし、と思って分解してみることにした。ばきばきと、力をいれながらいろんな部分をはずしていった。
 長針と短針と秒針を横に並べてみる。
「これが分、これが時間、これが秒」
 とりあえず長針を折ってみた。細いけど短針と同じくらいになった。秒針も折ってみた。そんなかんじでいろいろ折っていった。
 セロテープを持ってきて、折れた針をジグザグに固定してみた。ピカチュウのしっぽだと思った。
 紙粘土を買うために家を出た。
posted by しょこ at 15:41| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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